バイアス嫌いの投資家は、バイアス嫌いバイアスに支配されている投資家でもあるから、あれ

f:id:oror:20160715185433j:plain

 バフェット、マンガー、ソロス、タレブ、多くの投資家が共通して言い続けているのが、人間の認識にはバイアス(歪み)がある、ということだ。でも、 バフェット、マンガー、ソロス、タレブは人間なので認識にバイアスがかかっている。

 バイアスの分かりやすい事例として、競馬では「穴馬バイアス」というのがあるらしい。

実は経済学の文献の中では、競馬のオッズには「穴馬バイアス」と呼ばれる歪みが存在することが知られている。これは、馬券購入者達は穴馬(オッズが高い馬)を過剰に好むので相対的に穴馬の馬券が割高になり、逆に本命馬(オッズの低い馬)の馬券は割安になる、というアノマリーである。このアノマリーは世界各地の競馬で恒常的に観測されており、統計的にその存在が確かめられているものである。(参考:「穴馬への過剰な選好 (longshot bias)」に関するサーベイ

stockedge.hatenablog.com

 バイアスがあると、AとBという選択肢のうちAばかりが好まれて、Bが極端に安くなってしまう。しかも、バイアスの出方は、市場が違うと真逆になる。ニコラス・タレブが常に半ギレになりながら指摘するオプション市場のバイアスは、競馬と反対で「本命バイアス」がかかりすぎていて、穴場のオプションが激安になるというズレが生じている。

f:id:oror:20160715185718j:plain

 ところが、バイアスが全く無い状態にしたらいいじゃない、というわけにもいかない。人はバイアスがないと何も判断ができない。情緒がどうやら脳の原動力になっているからだ。(おかしなことだけど、バイアスに対して敵意を持つのも情緒があるからだ。自分が間違うことが許せないのは明らかにバイアスだ。間違うことがなぜ悪いのか。)だから、意思決定に人間が介在する限り、意思決定される何か(選ぶかどうか決めなきゃいけないものすべて、資本市場や商品が取り引きされるすべての局面、経済活動のすべてや、経済に関係ない結婚とか友情とか)で、本質的にバイアスが無くなることがあり得ない。

 進化の観点から、人間は自分が時間をつぎ込んだ考えに忠実になるよう仕込まれていると信じられる理由がある。(信念の経路依存性)市場での活動以外でも良いトレーダーだったら、どんなことになるか考えてみるといい。毎朝八時に起きて、それまで好きだったものも忘れ、妻なり夫なりとの関係を続けるか別れるか決めないといけない。・・・純粋に合理的な行動をとる人間は、扁桃体に異常があって、愛着という感情が阻害されている可能性がある。

 

  もっと言えば、新しいビジネスの普及と崩壊の仕組みも心理的バイアスに起因している。あるサービスが成長するのは、「みんなが選んでいるからたぶん間違いないだろう」というバイアスとヒューリスティックスの賜物だし、そんなサービスを打ち破る新しいものが出てくるのも、「よーく考えてみると、こんなサービスの何が良いんだろうバカ高いし、楽しくもないよね」という気づきがあるからだ。

 だから、スタートアップは常に「誰も気づかないこと」に気付かなくてならない。

 

www.slideshare.net

 こういう考え方を要約すると「いつも、『普通だったら●●と考える』というものにぶち当たったら、たぶん間違っていると結論付けておけば、必ず正解になる。」ということになる。これって、かなり単純な構造になっていて、バイアスという基本構造が遺伝子レベルで不変なのであれば物事の構造自体は,スーパーカンタンなままだということを意味している。 

 こういう現象の一つに流行語とか「バズワード」とかの現象がある。

 以下が、本日時点のGoogleトレンドでの青:IoT、赤:フィンテックのトレンドの変化だ。日本国内での検索結果だけに絞ってある。明確に「フィクテック」のトレンドが下降線を描いている。

f:id:oror:20160715172213p:plain

 Google トレンド

 ある「キーワード」は人の頭の中でカンタンに構造を作るのに便利で、物事の全体像をすっきりさせてくれる。だけど、すぐにブームは去るもので、これからはコレだ!と思いこんでも外れることが多い・・・。

 たとえば、Airbnbで民泊をやろう、というフレームが提示されると同種の別のアプローチ(他のサービスを使うとか、そもそももっと収益性の高い戦略が他にないのか)は切り捨てられて、大体の人がAirbnbのサービスの中でどう一位を取るか、という考え方にとりこまれる。

 そして、プラットフォームは一時的に栄えるけど、すぐに別のものに取って代わられる。

f:id:oror:20160715191325j:plain

 こういうことは、手をかえ品をかえて何度でも起きるので、なかなか同種の構造であるということに気付きにくい・・・。だから、注目を集めているものの裏側で起きていることや、それでリスクを取っていないのに儲けている人は誰かに気をつけた方が良いと思う。

 もっと大きいフレームで言うと、銀行とか個人向け金融などの金融システム、資本主義、会計簿記のフレームも、人を支配する概念として強烈なものがある。

 新興国で銀行システムや個人向け金融、ソーシャルレンディングなどが発達するのは、新興国では個人の少額投資でも収益性が見込める機会がたくさん存在するからだ。たとえばオートバイを買えば、手持ちの商品を収益機会のある場所に移動できるようになる。この基本的なフレームは、近所の人のちょっとした成功を目撃させ、社会性を伴って病原菌のように成長するだろう。「金融・資本主義・会計簿記」の3フレームは、それが浸透していなければ、熱狂を持って広がり、止まることがない。これは、チャールズ・マンガーがコカ・コーラの社会性を伴った伝播に感じ取ったものと同じもので、止めることが出来ない。*1

f:id:oror:20160715184938j:plain

 シナリオの確定性は、人間のバイアスに立脚している。もし、このバイアスに立脚していない商売で勝てるものがあるとしたら、それは本当にランダムな偶然なものでしかない、と思う。

 必勝のポジションは、常にバイアスという強烈な確定性の上に築かれた多少のゆらぎに賭けるものである。*2人間のバイアスの現れ方は多様なので、時期によって必要な戦略は全然違うものになる。

 たとえば、バリュー投資的手法が通用する時期と、モメンタム投資が強い時期に移行し、次第にボラティリティが高まって、ボラティリティ地震発生後の余震で儲けるフェーズへ、最後に一方向での暴落が始まりモメンタムで放っておくことが最大利益になり、またバリュー投資の時期になる。

 でも、これをすべてとりにいくことは、それぞれの状況をバイアスのかかりまくった人間が見分けるという難しさがあるから不可能に近いかも・・・。そして、そもそもバイアスが大嫌いだからバイアスを避けているぜ、と思っている投資家自身のバイアス半端ないから、あれ。*3

*1:マンガーの理屈の作り方は、典型的な後知恵バイアスだけど・・・。

*2:タレブ的に確率的なものだという言い方はしたくないので、しない。確率的だというセンスそのものがバイアスなので・・・。

*3:過去16年間、ぼくは相場が天井圏にあるという判断をしたことは一度もない。つまり、状況の推移などまったく読めていない。

ブレグジットで世界経済が終るかどうかを国富のバランスシートから予測すると

 ブレグジットで世界経済が終るかどうかを国富のバラスシートから予測すると、結論として、イギリスは最強に賢明な判断をしていることになる。

 以下は、ぼくが以前に計算した国富にインフレ/デフレが50%進んだとしてという仮定で*1ストレスをかけた場合の国富の純資産にかかってくる得失をグラフ化したものだ。イギリスは世界で一番バランスシートがわけわからないぐらい金融化されている国なので、どちらにしろすさまじいインパクトがある。イメージで言うと自己資本比率がすごい低い銀行みたいな国の資産構成になっている。だから、通貨政策を踏み間違うことが、何よりも世界経済に対するインパクトがでかすぎて、リーマン級を超える最後の審判クラスの大暴落がくることは間違いない。そんなイギリスでブレグジットが起きたから死んだと思ったけど、そうでもないような気がするグラフなのだ。

f:id:oror:20151201125015p:plain

oror.hatenadiary.jp

 

  まず、このグラフが意味しているのは、イギリスにとって「デフレは死」であることだ。もう一度言うけど、イギリスにとって「デフレは死」だ。しかし、インフレ基調であれば、高い負債比率が幸いして、負債を帳消しにしながら踏み倒し収益を徴収し続けて純資産の上昇を得ることができる。これはバランスシートの仕組みの問題なので、生産性が一切向上しなくても、イギリス人がイノベーティブだろうが、そうでもなくてボーっとしていようが関係ない。

 それでは、イギリスの生命線インフレ率はどうであったか。

 f:id:oror:20160703225414p:plain

イギリスのインフレ率の推移(1980~2016年) - 世界経済のネタ帳

 順調にデフレによる死の一歩手前に近づいていた。ここで何としてもインフレ基調に戻すしかない。ここでブレグジットが起きると、どうなったのか。

 ポンドが安くなった・・・。たぶん、これは「ブレグジットノミクス」なのだ。まったくイギリス国民は意識していない可能性があるけど。結果として、デフレ輸出競争になってしまった・・・。

 

f:id:oror:20160703230740p:plain

英ポンド/ドル - FXレート・チャート - Yahoo!ファイナンス

 イギリスが首尾よく、ほどほどのインフレを手にした時、国富のバランスシート上では純資産の増加を観測できる。そして、イギリスでは経済基盤が盤石になった感が蔓延するだろう。実際には危機の水準が高くなっただけで、崩壊のときの水脈がコントロール不能になっていくだけだが。

 問題は日本がどうなるかだ。日本も同時に円安を達成して、ほどほどのインフレ基調に乗れるだろうか。その時、アメリカとユーロは自国通貨の高どまりを受け入れられるだろうか・・・。あるいは、日本の生き方としてデフレ耐性をつけるという方法がある。現金保有比率をある程度高めると、デフレが逆にバランスシート上の利益になる地点がある。(具体的に言うと、2013年時点のバランスシートでは500兆円程度の固定資産を現金化。今はもう少し現金化が進んでいるかも。)そこを目指すなら円高・デフレでも問題が全くなくなる。

*1:何で50%かということに特に理由はない。影響を想像した時に今はあり得ないとされている世界を考えた方が良いからだろうと思っている・・・。

合理的なオプション戦略について

 今まで、オプション戦略について考えようとしても良い戦略があると思えなくて取り組んでこなかった。けれど、オプションにもやりようによっては非合理的な価格の歪みを取っていく方法があるようなので今さらだけど、勉強していきたい・・・。また、ぼくは悲観的な性格なので、今後の金融市場については極めて懐疑的だ。信じがたい暴落の日が最後の審判的に訪れるような気がして仕方がないので、この戦略をとれるのは精神的に安心できる。

 オプション戦略の基本的な考え方は以下に要諦がまとまっている。けど、これはタレブが大嫌いな危ない戦略ですね・・・。

ひたすらバイ・アンド・ホールドという選択肢もあると思いますが。

オプションを適切に取り入れることで、投資の選択肢が増え柔軟な投資方法が選べる、ボラティリティを下げる、アセットアロケーションの分散、下げ相場や上げ相場に関係なくキャッシュフローがプラスになるなどの利点があります。
 
また、カバード・コール(covered call)やキャッシュ・セキュアード・プット(cash secured put)はバイ・アンド・ホールドと相性が良いオプションの戦略であることも重要です。
 
ちなみに、「オプションの売り」の特に有利な点として
 
【タイム・ディケイを味方につける】
タイム・ディケイによるオプション価格の減価が有利に働く
 
キャッシュ・フローがプラスになる】
キャッシュ・フローがプラスになる、(評価額はマイナスの可能性はあるが)よって柔軟な投資戦略が可能になる。(プラスになったキャッシュ・現金で価格が下がっている他の資産への追加投資などが可能になる。)
 
インプライド・ボラティリティは過大評価される傾向がある】
インプライド・ボラティリティは過大評価される傾向がある→オプションのプレミアムは過大評価される傾向があるということになります。過大評価されたプレミアムを売り、割安になったところで買い戻すことで収益が上がります。

 

sites.google.com

  これにたまに訪れる相場の大暴騰と大暴落対応を付け加えると完璧な対応になるんだろうか・・・。

 株価の動きは以下のように、正規分布よりもほぼ真ん中の動きの少ないところが高くなるように値動きが集中し、正規分布よりも端っこが高い(ファットテール)ことが知られている。真ん中のほぼ動かないところではオプションの「売り」で対応可能だ。

f:id:oror:20160703221145p:plain

Fat Tails and Tall Heads | RCM's Attain Alternatives Blog から

 そして、端っこのファットテールに賭けるのが「ブラックスワン」で名を馳せたナシーム・タレブだ。ファットテールで起きる大変動にはオプションの「買い」で対応可能だ。

ちなみに、タレブ氏はオプションの買を推奨しています。
まあ、オプションのロングが専門のヘッジファンドを運用しているので当然だと思いますが。
私はカバードコールのオプションの売りがメインなので、著者のタレブ氏とは投資スタンスが正反対です。
ただ、「確率は低いが稀に起こる期待値が高い賭けに参加する」というのは合理的で有効な戦略だと思います。

タレブ氏のオプションロングはブラックスワン待ちのロングであり、単純に株価が上がると思うというロングではありません。

本書はタレブ氏自身が自分の戦略を「ボラティリティ・ロング」という表現で紹介しています。ちなみに、素人が実践するには精神的にも技術的にも難しいと思います。
以下に、この本で面白い・参考になった箇所を抜粋します。
(抜粋P.72)弱気派は急騰でハエみたいにバタバタ落ち、強気派は音楽が止まると絵に描いた餅の利益が消えて皆殺しだ。でも、一つだけ例外があった。オプションを取引をしていた連中の一部(オプション買い派と呼んでいた)は目覚しい持久力を発揮していた。私もそうなりたいと思った。
オプションプレミアムの需要な要素にボラティリティーがあります。タレブ氏のオプション買いは、ブラックスワンが現れたときに大勝するポジションなのでしょう。
(抜粋P.84)私が仕事を始めたころ、雑音に耳を澄ませている連中を見るのは我慢がならなかった。そうやって情報を手に入れようとしても、統計的に有意ではなく、だから意味のある結論は出せないからだ。
まあ、ニュースを追ったところでそのニュースから統計的に有意義な要素を抽出するのは不可能でしょう。相場を予想するのが不可能なのと同じことで。
(抜粋P.134)私がずっと市場でやってきた仕事は、「歪みに賭ける」と言うのが一番合っている。つまり、まれな事象で賭けるのだ。稀な事象はめったに起きないけれど、その分、実際に起きればとても儲かる。(抜粋P.135)オプションを買えば90%の割合で損をするという統計は、残る10%のときに平均でいくら儲かるかを考えないと、明らかに意味がない。オプションを買ってイン・ザ・マネーで終わった場合、賭け金が50倍になるのなら、オプションを買うのは貧乏人じゃなくて大金持ちへの近道だと言っていいだろう。

マッタリ バリュー投資とカバード・コール: まぐれ を読みました オプションのロング戦略、ボラティリティ・ロング戦略について

 この二つのオプション戦略を融合させたと思しきものが以下だ。要は、普段は正規分布より飛びぬけて出ている価格の変化のないゾーンをオプションを「売り」でとる。そして、緊急事態が発生するまでファットテール側の屑オプションを「買い」続ける、どちらにしろファットテール側はタダ同然の値段でオプションが売られているので、買っても大した値段ではない。

 ・ベガの性質

みなさんに直感的に理解していただきたいので、極端なケースで確認してみましょう。
IVが23%のケースと、IVが70%近辺のケースです。
IV70%というのはパニック時のIVですよね。
下記の表の左側が23%、右側が70%のケースです。
それぞれのケースのプレミアムとベガを表にしました。

6500 価格1 ベガ0.2 価格52 ベガ2.0
7000 価格3 ベガ0.4 価格88 ベガ3.0
7500 価格8 ベガ1.2 価格150 ベガ4.2
8000 価格29 ベガ3.2 価格255 ベガ5.4
8500 価格142 ベガ6.1 価格435 ベガ6.1
9000 価格13 ベガ2.4 価格239 ベガ5.7
9500 価格1 ベガ0.2 価格125 ベガ4.5
10000 価格0 ベガ0 価格61 ベガ3.1
10500 価格0 ベガ0 価格29 ベガ1.9

相場水準は8500円に固定しています。 プレミアムは、下はOTMプット、上はOTMコール、 8500円はコールとプットで同じプレミアムです。

IVは下記のものを使いました。

6500 57.64% 105.44%
7000 47.71% 95.51%
7500 38.46% 86.26%
8000 29.81% 77.61%
8500 23.04% 70.84%
9000 22.54% 70.34%
9500 23.34% 71.14%
10000 24.11% 71.91%
10500 24.83% 72.63%

まず、皆さんご存知のように、ベガはATMで最大で離れて行くのにしたがって小さくなります。
ここで、面白いのですが、IVが上昇してもATMのベガは変化しません。 
極端にIVが上昇しても6.1円のままですね。 一方OTMのベガは上昇します。 
当然ATMのベガを超えることはないのですが、結構7500Pなんかもベガ4.2円ですから ATMに負けないくらいの力を発揮しだすわけです。

屑プットを持っていて、相場大暴落時にみるみるポジションのベガが大きくなっていくのを 体験された方も多いと思います。 一つには、当然相場がストライクに近づいていくので ベガが上昇するというのもあるのですが、もう一つの強力な理由が結構ファーアウトのオプションでさえ、 それなりのベガを持ってしまうということなんですね。

兼元為太郎のFX・先物・オプショントレード報告: 通称タレブさん発言まとめ 4 of 5

 つまり、株式を長期でバイ&ホールドするのも、オプションを売り持ちするのも同じことでほぼ確実に起きる「予測不可能な暴騰と暴落」を戦略上の前提として組み込むというものだ。

 普通、人は「予測可能な何か」を探すので、「予測不可能でしかも確実なもの」を探さないので、この戦略が成立するのだと思う。

 

参考になる本

オプションボラティリティ売買入門 (ウィザードブックシリーズ)

 

参考に読むと勉強になりそうな記事

Pr0002【厳選必読本リスト/日経225オプション編】 | ゑもんレポート【オプション取引戦略編】-ブログ版-

日経225オプション取引で1億円を稼ぐまで 私の投資ツール紹介

日経225オプション取引で1億円を稼ぐまで 本の紹介

 

人工知能に対する狂熱の起源も説明するかも 「偶然を飼いならす」イアン・ハッキング

 イアン・ハッキングの「偶然を飼いならす」は名著すぎる本。

 統計に興味があるけどその概念が良く考えてみると良く分からないと感じている方、その漠然とした疑問は正解です! あるいは人工知能の限界って何なのっていう疑問にも答えてしまうかもしれません! 人工知能はすごい簡単に言い切ると相関を測るだけなので、因果は何も明らかになっていない。それでもそれが、「決定論的」に見えてくるというのは、かつて統計によって人間の運命が決まっているとやや恐慌状態に駆られた19世紀の知識人たちが思考を巡らせたのと同じ流れの再来なのではないかと感じさせたのが「偶然を飼いならす」。以下のラプラスの言葉が現代にリフレインしているのだと思う・・・。

自然を動かしているすべての力とこの自然を構成している諸存在の各々の状況を理解できるような知性が存在し、さらにこれらのデータの分析ができる能力を持っているとしたら、この知性は、宇宙で最も大きな物体の運動も最も小さな原子の運動も同一の方程式で把握することになろう。この知性にとって不確かなものは何もなく、未来は過去と同じようにその目の前に存在するだろう  ラプラス「確率の哲学的試論」

 今、まったく同じ文章を「諸存在の各々の状況を理解できるような知性」を「人工知能」と読み替えても違和感は全くない。だけど、はたして「人工知能」が全能であることは私たちにとって大切なことだろうか。

 たとえば、サンプルから母集団が推定できるという今や当たり前の考え方って、本当でしょうか? 本当に今までのサンプルは母集団なるものを反映していると信じられるのでしょうか? 本当に背景に母集団があると信じられるでしょうか? 日本人女性の平均寿命が延びたと聞くと、何となく日本人全体のことが分かったような気がするのはなぜでしょうか。平均所得という言葉で自分と社会の位置関係が理解できたように思うのなぜでしょうか。その数値と私に関係がある、と感じるのはどうしてなのでしょうか。確率的に計られる社会全体の病気の発生数と、自分自身の個別的な健康とは、全く違うものなのではないでしょうか。

 色々なものが正規分布したりべき分布したりすると言われるけど、だから何なのでしょうか? それって本当に何かを説明していることになっているでしょうか。分布は繰り返される? 何を根拠に?

 たとえば以下のような文章にいかに確率的な思考が我々の骨の髄まで食い込んでいるかが示されている。すべてが相関で語れると信じる狂熱。その「相関関係」と「因果関係」とは何であるかを考えているとは思えない・・・。

とはいえ、実際我々の人生は常に相関関係で生じているといえるだろう。偶然ある場所にいたことである人に出会う確率が高まる。どのタイミングで誰と出会うか、それらは結婚ですら相関関係で決まっている。すなわち、結婚するにしても「この人でならなければなかった」理由は本来的には存在しない。しかし、人は相関関係を因果関係で捉えようとする。試験に落ちれば過去の勉強量不足を原因とした因果で捉え、成功すれば過去の努力を因果でとらえる。だが「〜をしたから〜になった」といった因果関係が、実際にはすべてを捉えることは不可能であるばかりか、世界のほとんどは相関関係でできている。それでも人は、因果で捉えなければ自身を納得させられない。

 人工知能が発達し、相関関係で捉えられた未来に我々は納得できるのだろうか。いや、しかし、こうした想定もまた因果関係で物事を捉えているからにほかならないのではないか。30年後の未来では、相関関係で物事を捉えることに人間がマインドチェンジしているかもしれない。 

wedge.ismedia.jp

 私たちは、偶然が支配する世界、確率的な世界という概念に気付かないうちに溺れるほど浸かっているけれども、それって本当に心から信じていいものなんでしょうか。相関関係にしろ因果関係にしろ、たった一つの概念で物事を捉えることが本当にいいことなのか。

という厄介な疑問を抱えることになる困った名著です。導入編として「現代思想2000年1月号 確率化する社会」を読んでみると入りやすいかも。いまさらでごめんなさい、ハッキング! すごかったです。

 【概要】

  決定論は19世紀中に衰退し、偶然chanceという自律的な法則のために空間が開かれた。また、人間本性human natureという概念はばらつきdisper-sionの法則に従う正常人normal peopleというモデルに取って代わられた。これら二つの変化は並行して起こり、相互に影響を与えあっていた。偶然は世界からの気まぐれを減らし、言わば混沌から秩序を生み出したために、その正当性を認められたのである。世界と人々について我々が行う概念化において非決定論の要素が強くなるにつれ、逆説的であるが、期待できる統制の水準が高まってきたのである。

 これらの出来事はナポレオン時代の終わりの<印刷された数字の洪水>から始まった。さまざまな人間行動、特に犯罪や自殺などの悪い行いが計測されるようになると、それらは毎年驚くべき規則正しさで起こることが分かった。社会の統計法則が、逸脱についての公的な統計表から出現してきたのである。平均やばらつきのデータが正常人という概念を生み、さらに新しい社会工学、つまり望ましくない階級を改良するための新しい方法を生み出した。

 19世紀初めには、統計法則は根底にある決定論的な出来事に還元できると考えられていた。しかしやがて、統計法則の方が優越することが明らかとなり、紆余曲折を経ながらも、ゆっくりと決定論を侵食していった。やがて統計法則は決定論に依存せず独立した法則とみなされるようになり、その影響は自然現象にまで拡張された。こうして、新たな種類の「客観的知識」が存在するようになった。それは、自然や社会過程についての情報を獲得するための新しいテクノロジーの産物であった。このようにして正当化されるようになった統計法則は、出来事の過程を記述するためだけでなく、説明し理解するためにも使用されるようになった。こうして自然と社会の基盤を形づくる素材になったという意味で、偶然は飼いならされたのである。

 

 

不動産投資セミナー 

参加したセミナーの内容です。

「投資を始める前に自宅を購入したが、属性的にローンが組めなかった。そこで、任売物件を購入した。すべて自前で一カ月かけてフルリフォームをかけた。まだ生まれたばかりの子供がいたが、B級品のフローリングとかホームセンターで材料買ったりとか、足場だけ職人さんに組んでもらって知り合い総出で壁にペンキを塗ったりした。

銀行は、土地だけは担保にしてお金を貸しつける。

2年間で300冊の本を読んだ。図書館で片っ端から不動産関連の本を借りてきて、タダなので適当に読みがして、良い本だけ購入して何度も読み返した。ただ図書館の本は古いので出版された年度や、その状況を考えて読むことが大切。状況は変わってしまうので、今にあてはまるかどうかは分らない。しかし、基本的なことは変わらない。路線価などの概念は変わらず使えるもの。

大切なのは、不動産だけでなくて経営とか政治・経済の本も学ぶこと。

借金はやはり怖かった。

不動産屋さんも人間なので商品券などを贈られたりしたら悪い気はしない。何でもないときに贈るのが大事。

政治が大切なのは、例えば駐車場経営に影響する。2006年の道行法の改正で路上駐車が厳しく取り締まられることになった。それがきっかけで、コインパーキング事業を始めることを思い立った。知り合いから土地を借りることができた。土地を貸す人にもメリットを作らないといけない。運営法人に入ってもらうなど。

物件は、不動産屋さんが売っている。投資家が上から目線で入るのはおかしい。嫌な人がオーナーだと管理会社も客付けをしてくれなくなる。お掃除をしてくれる方にも、事細かに指示を出すよりも、「お任せする」という姿勢を大切にしている。ペンキを塗り変える作業なども知り合いからの紹介で工務店さんをお願いした方が良い。人間関係がないとうまくいかない。

何よりチームづくりが大切。

何か売主に問題があったりして投資家が逃げていく物件があったりする。そういう物件でも、不動産屋さんを味方につけて更地にしたときの売値を聞いておくなどで、買値としてリスクのない価格を知っていれば、値下げしても買えるかどうかが分かったりする。

先に借主を決めてから購入しても良い。入口を間違わないことが大切。

勉強するだけでなく不動産屋さんに行って物件を見ることが大切。買付を入れてもやめてもいいので。

もしローンを借り換えする必要が出てきても、積算が残債より出ている物件が良い、借りかえしやすい。

コインパーキングは人が集まるところ、道が狭くて通行がしにくいところ、などは有利。お寿司屋さんとかお風呂屋さんがあるとか、マンションがあるけど駐車場がない、病院があって病院関係者の停車が予想される、など理由がある場所が良い。

借地の方がすぐに撤退できる。

場所によって台数は決まる。住宅地だと4~5台くらいか。

地方の方が、土地の値段に歪みがあるのでやりやすいかもしれない。

駐輪場をやっている人もいるが、駅前の導線を理解することが大切。

手狭になると引っ越してしまうということを防止するために物件の中にトランクルームを作っておく人もいる。

「億万長者より手取り1000万円が一番幸せ!!」がお奨め本」

shisannomadoguchi.co.jp

ファットテールがなぜ起きるのかは解明されていない

以下のイベントで興味深かった内容。

gs.dhw.ac.jp

  • 確率50%のランダムな上下動のプロセスでも、原点に戻る動きになることは稀で、大体、上昇し続けるか、下落し続けるかが多い。だから損切りは数学的にした方がいいかもしれない。(ただし、期待値が正確に50%ならどの段階でも損切りをすることは合理的ではないので、ベイズ的に条件付き確率で考えるのが期待値で考えるなら正確。)
  • 相場の動きはランダムな動きをしている時の方が多いけど、そこから外れるとファットテールな動きになる。
  • ファットテールを分布で表わすとレヴィ分布になるが、レヴィ分布にすると分散が無限大になるので、リスクが無限大になってしまいモデル化不可能になる。
  • かといって、正規分布で想定しているモデルでは、正しいリスクは測れない。
  • そもそも、ファットテールになる数学的なメカニズムはよくわかっていない。モデル化する仕組みも考えられているが、そんなにたくさんはまだない。

投資はギャンブルじゃないというのは嘘なんじゃないか

なぜ人は投資しなければいけないのか。別に投資する必要もないのです。働ければそれで良いのでは? でも、投資をした方がいい時があると思うのです。その理由を何とか説明したい。

まずよく比べられるギャンブルと投資について考えてみます。よく、投資入門本には投資とギャンブルの違いを書いてあります。ギャンブルでは胴元の取り分があって、株式投資はそれがなくて、しかも企業の収益が成長する、お得じゃないか、そこに違いがあると言います。だけど、それは違うんじゃないか。

投資がギャンブルより上にある何かとは、どうも思えない。ギャンブルの場合、例えばサイコロの目を予測することは人間には難しいことです。非常に高速で計算ができて、あらかじめ投げられる手の動きを知っていて、その角度から重力や空気の影響と接地面の反発力を推測し出目を予測できる素晴らしい知能にはカンタン、でも人間には難しい。サイコロではなくて投資を選びたいのであれば、企業の収益はサイコロよりも簡単に予測ができると考えているはずです。あるいは、一つの企業では難しいが、「企業のまとまり」であれば簡単であると、考えているのです。「企業のまとまり」が生み出す収益はサイコロよりは確実なものなのだというのです。

これは、納得ができる話なんでしょうか。収益が増えるかどうかわかりようがないのです。つまりは投資の根拠は主観です。だから、本当のこともあるし、そうでない時もある、というのが正解ではないでしょうか。終わってみないと正解だったかもわかりません。いくらウォーレン・バフェットジョージ・ソロスが勝っているからといって、彼らが必勝の方程式を知っているわけではありません。彼らなりの「思い込み」が外れていなかったというだけのことです。

投資をしたら儲かるからやった方が良い、とか、投資をしたら老後の資産が築けるからやった方が良いというのは、正解ではないし、近いようですが投資で得られる収益の「可能性が高い」という言い方も正しくありません。未来のことは全くわからないけど、色々なことを合せて考えてみると、どうも多くの人が考えていることとは違うことが起きそうだ、という「思い込み」が強いときにだけ投資をした方がいいのです。だから投資をした方がいい理由は、むしろないのです。ただひたすら安いものがないか探して、それを仕入いれていつか高く売れると信じるという行動をとるかどうか、であって、これは見ようによっては完全にギャンブルなのではないかというのが、まずは今思う結論です。

それでも、完全にギャンブルに見える投資をサイコロよりも有利にすると思う条件とはなんでしょうか。仮に主観であっても、勝てると信じられる理論があるわけです。企業は賭場と違って自社に有利な環境で営業していることがあることです。法的に保護されたり一方的に有利な状況を享受できることがあるのです。その場合サイコロは超スロースピードで動いています。出目はほぼ見えています。(という熱狂が投資家にある。)また、人間は他人に影響を受けて行動するので、その行動が予測しやすくなる時がある、ということです。ある消費行動が確立すると、毎年同じ消費行動を人は取ってしまうものです。同じブランドから購入する金額は毎年少しずつ増えていくけれど、他から購入することはだんだん減っていく、ということが起きます。(という狂喜がチャールズ・マンガーを捕らえる。)以上のような状況は予測ができないものの、サイコロがゆっくり動き始めている状況だと投資家は考えがちです。

予告的に、投資の条件をサイコロよりも簡単にする要素を思いつくままにリストにすると以下のようなものです。

  1. 人間は習慣化した行動を突然止められないし、今年と来年は全く同じ年であるかのように予測する
  2. 人間の習慣を利用している企業は、毎年収益を増やすことができる
  3. 周辺環境を味方につけている企業とその他の企業では評価の仕方は全然違うものにすべき
  4. それでも企業が思ったようには人間をコントロールできないので、突然売れなくなることもある
  5. 人口動態はほぼ確定していて変えられない
  6. 人口動態が人々の行動に与える影響は間違って解釈されていることが多い
  7. 技術革新も過大に評価されたり過小に評価されたりする
  8. 間違った解釈/評価と予測に基づいた間違った値付が横行しやすい
  9. 人間は長期的には必ず死ぬので、その人間の目から見た評価と長い寿命を持つ企業に対する合理的な評価は常に乖離するかもしれない

何か、サイコロをゆっくりにさせるもの(しかも他の人は普通の速度の予測不可能なサイコロにすぎないと思うもの)を延々と探し続けること、これが投資をしたいと思う人の基本的な動作になります。そして、そのサイコロがゆっくりしていると思っているのは投資をする人の主観でしかないのです。それでも、私は投資するべきだと考えているのです。