世界一の投資家バフェットを陰で支えた男 投資参謀マンガー

ウォーレン・バフェットの名参謀として知られるチャールズ・マンガーの生誕から、バフェットとの出会い以前と以降のビジネス・生活・家族観を描く。
若きマンガーが弁護士業の傍ら、テクノロジー企業の経営に参画して苦労をしたり、カルフォルニアの不動産開発で財産を築いたり、バフェットとの出会い以降も、数々の失敗があったことが分かる。特に、若いマンガーの試行錯誤の日々が後々の経営判断に大きな影響を与えていること、窮地に立ったときにマンガーが設立した弁護士事務所が大きな助けになっていることなど、が良く分かる。築いた人脈と信頼関係が後々まで続く成功の基盤になっていることがわかる。

マンガーの名言「信じられないほど業績の素晴らしい企業がたくさんあるでしょう。問題は、いつまでその状態が続くかということです。それに対する答えを見つけるためには、私が知る限り、たった一つだけ方法があります。それは、そうした業績を可能にしている原因について考え、それらを阻害しうる条件を洗い出していくことです」

「本を手当たり次第に読んでも意味がない、なぜその情報が必要なのか、目的意識を持たなければいけません。年次報告書を読むのであれば、フランシス・ベーコンが提唱した科学的な方法をとってダメで。現実に関する概念を身につけてから始めなければいけない。そして、今、自分が見ているものが、すでに証明された基本的な概念に適合するかどうかを、見極めなければいけない。」

二○○万ドルを、二兆ドルまで増やすには?

  1. 「頭を使わなくても分かる」大きな疑問を最初に明確化してから問題を単純化することが最良の方法である。
  2. 数学がまるで神であるかのように、科学的事実はしばしば数学さえ用いれば明らかにすることができる。
  3. 問題を先回りして考えるだけでは不十分である。思考の逆転も必要である。自分がどこで死ぬかが事前に分かればそこに行かなくて済む。ピタゴラスがルート2は無理数であると証明したときの思考法。
  4. 最高かつ実用的な知恵は初歩的な学問上の知恵である。学際的な見地に立つ必要がある。各基本教科の初等過程で学ぶ簡単に理解できるすべての概念を、ごく普通に利用しなければならない。
  5. ともて驚くべき効果は、たいていさまざまな要因の組み合わせから得られる。

1884年に二○○万ドルで非アルコール性飲料の会社をアトランタでつくるというお題がある。その会社の名前は「コカコーラ」である。2034年までに二兆ドル企業を作らなくてはならない。
「頭を使わなくても分かる」重要な判断を下す必要がある、まず「ありふれた飲み物では二兆ドルの価値ある企業は作れない」、だから、第一に「コカコーラ」を強力な法的保護によって守られた商標にするべきだ。そして二兆ドル企業になるためにアトランタを制覇するだけでなく全米そして世界中で急速な成功を収める必要がある。そのために、普遍的な魅力がある商品を開発する必要がある。
数学的なスキルで目標を確定する。2034年までに世界におよそ80億人の飲料消費者がいるだろう。人間は一人一日あたり64オンス(1.9リットル)の水を必要とする。これは一杯8オンスで八回分の計算である。この飲料における新商品の市場が水分摂取量の25%を占めると推計した場合に、その世界市場の半分を掌握した場合、2034年には一杯八オンスを、二兆9200億杯売ることができる。もし一杯四セントの純利益を上げられれば1170億ドルを稼げる。もしビジネスが順調に成長するならこれで二兆ドル企業を作れる。150年の間に貨幣価値はほぼ確実に低下し、平均的な世界の消費者の購買力は上昇する。一方技術が向上するにつれて、一定の購買力単位での単純製品の製造コストは低下する。そのため、ドル換算での世界的な飲料購買力は150年にわたって少なくとも40倍には増加する。したがって、4セントの利益目標の1/40の利益目標で1884年にはスタートすることができる。
普遍的な魅力を持つ商品を開発するためには、1)150年を通じて新たな飲料マーケットが世界の水摂取の25%を占めるためのパターンをつくらなければならない。2)競合全社のシェアをすべて足しても半分以下になり、自社が半分を占めるように運営しなければならない。強固な商標が必要だという「頭を使わなくても分かる」判断の結果から、始めると、この私たちのビジネスの本質が理解できる。心理学の初等過程に依拠すると、要するに私たちのビジネスは条件反射を作り出し、それを維持するというビジネスを作ろうとしていることが分かる。コカコーラの商標が刺激的で、その飲料を購入して飲むことが望まれる反応である。
その反応を作り出すものとは何か。1)オペラント条件付け 2)パブロフの条件付け である。
オペラント条件付けのためには、1)私たちの飲料を飲んだときの「報い」を最大化する 2)他社の飲料を飲んだときの条件付けの弱化を最小限に抑え込む、が必要。オペラント条件付けのためのカテゴリーは以下、

  1. カロリーやその他の原材料という観点で見た食品の価値
  2. ダーウィン説の自然選択を通じた人の神経プレプログラミング下で、それを飲みたいと思わせる刺激剤として作用する、飲料の風味や舌ざわり、香り
  3. 砂糖やカフェインのような興奮剤
  4. 人が暑いと感じているときの冷却効果、人が寒いと感じている時の温熱効果

「冷たい飲み物にする」は簡単に決定される。過度の寒さに比べて、過度の暑さを和らげる方法は冷たい飲み物を飲む以外にないから。さらに異常に暑い状況ではより多くの水分補給が必要になるがその逆ではそうした状況はない。砂糖とカフェインの添加も決定が簡単。紅茶・コーヒー・レモネードはすでに広く消費されている。カフェイン入り砂糖水を飲んだときに、快感が最大となるように風味や特徴を工夫することに熱心に取り組む必要がある。競合に対する防御策として、できるだけ早く私たちの飲料がいつでもどこでも世界中で手に入る体制を整えて会社としてまるで強迫観念かのように取り組む必要がある。
パブロフの条件付けについては、消費者の心に浮かぶ考えるすべての良いものと、コカコーラが結びつくようにさせなければいけない。つまり、大規模なパブロフ条件つくりだすために、広告に大量に費用を投下することになる。先に大量に広告投下していれば、競争相手は彼らのパブロフ条件をつくるための非優位性に直面することになる。
そして、このビジネスの助けとなる別の心理的な側面は「社会的証明」と呼ばれる、「猿まね」である。他人が飲んでいれば自分も飲みたくなる衝動は、それは飲んだことで得られる「報い」を増幅する効果もある。このようにして広告投下と社会的証明が組み合わせられれば、「売上が売上を生む」状態となる。

以上から、

  1. パブロフの条件付けの活用
  2. 強力な社会的証明の効果
  3. 素晴らしい味覚を持ち、エネルギーを与え、刺激的かつ魅惑的に冷たい飲料によって大きなオペラント条件付けを生じさせる

という3つを組み合わせれば、それぞれの要因が大きく絡み合うという理由によって長期にわたり売上が増加する。

ビジネスの製造工程と流通の戦略はシンプルなものになる。1)飲料ファウンティンとレストラン用シロップとして 2)容器に入った完全な炭酸飲料としてという二つ。大きなパブロフ効果と、社会的証明の効果のために、飲料ファウンティンで飲料一杯あたりにかかる製造コストの40%以上を常に広告および販促費に投下する。
シロップ工場は世界に数か所で済むがボトルに詰める作業は点在する下請けのボトラーに任せることで効率化ができる。ただし、1)飲料ファウンティン用シロップ 2)完全な製品が入ったボトル に対して初期価格を設定する必要がある。それができないと、利益を最大化できない。ボトラーに価格の支配権を取られてはならない。たとえば、ボトラーがシロップを買い上げて、価格を固定化するなどを許容してはいけない。また特許によって製法を守れないので、製法を強迫観念的に秘密にする必要がある。またそのことで、パブロフ効果を促進する。

事業プランの現実性チェックとして起こってほしくないことを列挙する。

  1. 二度と飲みたくない味にしてしまうこと。
  2. 強力な商標価値を失うこと。たとえば競合となるコーラの出現。もし出現したらそのコーラを買収する。
  3. ねたみによる悪影響を回避する。成功したら、ねたみを回避するために、成功に見合うだけの価値を作り出さなければいけない。品質・宣伝の質・価格の手頃さで死に物狂いの努力が必要。
  4. 製品の味を突然変えない。数々の積み重ねられた心理効果・広告効果によって消費者の「好物」となっている古い味を奪うと、消費者の心に反発しか起きない。さらに競合がその期に乗じて古い味に似た製品を出すことになる。

ほとんどの博士課程の教育者たちは、これと同じ結論を出さないだろう。
「新しい工作機械が必要なのにまだそれを買っていない会社は、買っていれば得られたはずの利益を失っているのです」