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長期経済統計から見る日本の国富の推移 貯蓄率のマイナス要因で500-1000兆円国富が減るのではないか

ピケティが21世紀の資本で示したB=s/g、資本所得比率=貯蓄率s/成長率gが日本の今後にあてはまるとするならば、国富の水準はかなり低下すると考えるべきだろう。その水準は、500兆円〜1000兆円にのぼるかもしれない。ただ海外投資家からの資金流入が続けば、資本市場の暴落という事態にはならないかもしれない。あと、この結論は意外にもピケティの考える「資本の勝利」という世界観とは真逆で、日本はいち早く資本が没落するかもしれないことを示している。

すでに日本の家計貯蓄率はマイナスになっているため、予測が正しければ国富も減っていく。ただその事自体は、それほど悪いことではなく、アメリカのように消費水準が高く、資本/所得比率が低く、海外からの資本流入が大量にある国になるということだろう。そして経済成長率はそこそこの水準に回復する。
家計貯蓄率がマイナス、日本経済の影響は?

日本の国富は1955年〜1970年までほぼGDPの3倍〜4倍水準で安定していた。
1965年に政府の支出が国債によって上積みされた。1968年より貯蓄率が15%台から抜け出し、16.9%と順調に上昇し始める。
軌を一にして国富の水準が上がり始める。1971年と1972年には株式市場も活況を呈する。1973年の第一次石油ショックによってインフレ率が高まったことにより、国富の水準がGDP比で跳ね上がった。

均衡状態にあった国富水準が上昇するきっかけは、あんまり大したことではなかったかもしれない。少しだけ政府支出が増えると、こうなるのかも・・・。その先の資本増加はバランスシートの中での富の大きさそのものが影響して経済成長率を低下させ、貯蓄率との差を生み出しながら自己増殖していく段階なのかもしれない・・・。

そして、現時点での国富は、大体3000兆円で、GDPが500兆円だから、B=約600% 約6倍程度で推移している。

内閣府 平成20年度 年次経済財政報告
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je08/08b09010.html


さて、もしピケティが言うように、B=s/gで、資本所得比率=貯蓄率s/成長率gで表現されるとするなら、貯蓄率が低下している日本の場合、ゆるやかに資本所得比率が減少しはじめるのか、ということとが気になる。(また、国富の増加ペースが貯蓄率に連動してスムーズに進むのではなくて、地震のように貯めこまれた力が資本価格の上昇という形で実現されているように見えることも気になる。もし減少するとしても、地震のような暴落が起きるのかもしれない。貯蓄率のちょっとした上昇に刺激されて資本市場はかなり早期に暴騰するし、その後も上がったり下がったりを繰り返す。ここに何か市場がファットテールで動くこととの関連性があるような気がする・・・。)

また、マイナスの貯蓄率を利用した経済成長の高さというものがあるのだろうか、ということも気になる。そういう未来はあり得るのだろうか。

下記記事によれば預貯金の獲得競争も始まるかもしれない、とされているけど、そうすると資本が経済に与える影響は小さくなるので、経済成長を高めるには望ましい環境かもしれない。
家計貯蓄率がマイナス、日本経済の影響は?

貯蓄率の予測については、下記記事に示されている。
日本の家計貯蓄率

グラフで予測された時期と一致する。この予測が正しければ、かなりの速度で資本が流出することが予測される。
現時点での国富は、大体3000兆円で、GDPが500兆円だから、B=約600%だと言える。

ピケティのB=s/gの法則が正しければ、マイナスの貯蓄率はマイナスの資本/所得比率をもたらす。すなわち、日本において格差をもたらす資本/所得比率は強烈に是正される。また、不労所得よりも経済成長がもたらす労働所得が重視されるようになるだろう。

一方で、国富の所有者は大きく海外の投資家が担うことになる。資本収益率は高くないままに、海外投資家が購入を続ける。この現金と資本の交換が日本のGDP成長を助けることになる。国富のバランスシート上の固定資産比率が下がることで、固定資本クラスの収益の国民経済の依存度が低下する。閉鎖経済では固定資本クラスの国民依存度の低下は、資本収益の低下を招くが、解放経済下では影響が緩和される。

すなわち、膨大な資本ストックのうち500兆円〜1000兆円が所有者を国外に移すことになるのではないか。600%中の、200%が流出したとすると、400%になり大体アメリカの水準や1960年代の日本の水準に戻ることになる。*1

これは、−2%程度の貯蓄率が続くと仮定した場合の大体の見積もりである。
-200%(B)=-2%(s)/1%(g)
-100%(B)=-2%(s)/2%(g)
-33.33…%(B)=-2%(s)/6%(g)

ただし、貯蓄率の減少が−2%を大きく上回り、しかも加速するのであれば、もっとカタストロフィックなことがあるかもしれない。予測値を見ると−2%でもまだ甘いので、予測以上のことが起きるかもしれない。

GDP水準が一定の速度で成長し続けるとしたら、資本ストックの順調な売却が必要になる。その資金の提供者は海外の投資家以外ではあり得ない。

そして、海外の投資家の日本への投資速度は、世界の「貯蓄率と成長率」に依存している。世界のB=s/gが、プラスであれば、日本への投資速度はプラスであり得る。

日本のGDP水準は貯蓄の取り崩し圧力から、上昇するし、その場合は労働力の不足感から賃金水準が上昇する。結果的に、GDP成長や労働生産性の向上への投資は、資本財(不労所得)収益に対して優位な投資機会を提供する。そのため、海外から見て日本経済への投資は有益であると考えられるだろう。(ところが、この投資収益性は、為替相場の調整によって見劣りするものになる可能性もあるだろう。)

この不気味な均衡状態は、偶然性に依存している。狙っているものではない。世界の貯蓄率の上昇から、フラット化、そして下降は、最後に資本財を持っていた人の犠牲の上に成り立つものになるかもしれない。日本は、世界と動きが少しズレているのでマイナス面をあまり感じないだけかもしれないのだ。
 
 今後の世界の貯蓄率の変化から考えられる大局的な投資家としての考え方は下記のようなものになるだろう。

 1)世界の貯蓄率の向上がある中で投資をするフェーズ
  資本財の価格が向上するため、そのキャピタルゲインを当てにできる。日本の場合は特殊ケースで、日本の資本財を海外投資家に売却することで利益を得られる。(時間差があるからできるだけで、後から来た国はこれができないかもしれない。)
 2)世界の貯蓄率フラット化に伴い投資対象選別するフェーズ
  生産性が重視されるようになり、生産性向上を伴わない資本財の魅力が下がり始める。個別企業の選別が重視されるようになる。
 3)世界の貯蓄率が顕著に低下しはじめるフェーズ
  資本の没落が目に見える時代、高利回りとなった国債などを大量購入してインフレ後のデフレに備える必要がある。個別企業では、インフレに強いかどうかを唯一の選択眼とするしかない。(貯蓄率が低下した社会では、収益機会が生産性の改善以外になくなるという想定であれば、絶え間ない生産性の改善は、結局それが貯蓄を可能としないのであればインフレに繋がるという考え方。もしかすると違うかもしれない。)


補足 経済成長率は国富が減れば上昇する
 政府部門の資本変動は、実体経済インパクトを及ぼさない。民間部門の資本変動は、実体経済インパクトを及ぼす。民間部門の意思決定は、資本価格によって変動する。民間部門の資本の役割には、価値貯蔵の役割があるため、資本の代替可能性は労働に対して常に1より大きい。したがって、常に資本は増加するため、短期間の成長率のキャッチアップが生じる。
資本量が一定以上になると、資本価格の変動が、一個人の限界効用に対して労働収益の増加を大きく上回る収益を生むために、労働生産性の向上の意味が喪失する。借入金を利用して、1億円の資産を形成し、5%の収益を確保すれば、500万円の利益を生む。資産が10億円であれば、5%の収益は、5000万円であり、彼は、それ以上の生産的な投資を数年間は実施しないことが望ましくなるだろう。投下するべき時間コストを比較すれば、合理的な判断として、金融的に資本を所有することが望ましい判断になるだろう。したがって、労働生産性の向上に資本を投じる合理的理由がなくなるために、生産性の向上が止まる。
資本の代替可能性が労働より常に1より大きいのは、一個人の限界効用に比べて、常に資本を通じた集団的な労働の所有や、土地所有がリスクが小さいからだ。そのため、合理的な個人であれば、必ず所得の何割かを資本に振り分ける。これらの事情により、生産関数は、資本の蓄積に応じて必ず一定の数値に収斂し、必ず低生産性状態に陥る。誰もがオリジナルな生産活動に従事することを避けるため、生産性の相互向上効果がなくなり、投資意欲も勢い低下するのである。
労働生産性は、生産性を向上させる理由がなければ向上しないという自明の結論である。*2効用が限界を超えることによって、資本はそれ以上に増えようとしないし、生産性も向上しないことになる。資本の収益性が下がっても、その貯蔵機能ゆえに、価格は維持される。しかし、資本の収益性が下がれば、労働生産性を向上させるための投資が再開されるだろう。

もし、この論理がどこかで正解に少し引っかかっていたとすると、特に資本が低下すると生産性が上がることが正しければ、B=s/gを逆転させて、g=s/Bとする手法が適用できるかも。(「21世紀の資本」p.239)

 マイナスの貯蓄率をくぐりぬけて、資本/所得比率が低下した日本で、貯蓄率がプラスに戻ったと仮定する。貯蓄率が7%だとすると、Bが600%の成長率は1.17%でしかない。

 1.17%(g)=7%(s)/600%(B)

 もし、400%以下だとすると、下記のようになる。

  • 1.75%(g)=7%(s)/400%(B)
  • 2.33%(g)=7%(s)/300%(B)
  • 3.5%(g)=7%(s)/200%(B)

もし、貯蓄率が15%だとすると、下記のようになる。

  • 3.75%(g)=15%(s)/400%(B)
  • 5%(g)=15%(s)/300%(B)
  • 7.5%(g)=15%(s)/200%(B)

 ※スウェーデンのような貯蓄率の低かった国で資本/所得比率がどのように推移したか、と株式市場への影響を追跡すると良いのではないかと思う。
 主要国の家計貯蓄率


 

*1:別で試算している国富のバランスシートのデフレ/インフレへのストレステストでは、丁度偶然にも500兆円近くの固定資産を現金化して流動資産にしておけば、デフレ/インフレに対してニュートラルなバランスシートに戻ることを確かめている。そのため、この推移自体は経済にとって労働生産性を高める経済に移行するためにとても望ましい動きだと考えている。 参考ページは、こちら。国富のバランスシートが大きくなると、インフレ/デフレに振れやすくなるかもしれない

*2:この辺のことがフィリップス曲線の背景にあったりしないかなというのが、最近の日本のフィリップス曲線 デフレ期の失業率増加