シニョリッジからバランスシート問題を考える

偏執的に考えている国富のバランスシートから、経済成長ではないフリーランチが出てきてしまうのではないか問題について、詳しそうな人に伺うと、どうも「シニョリッジ(通貨発行益)」あたりがかかわりありそう、とヒントをいただきました。

通貨発行益 (S) は実質ベースマネーの増分 (⊿M) とインフレ率と一期前の実質ベースマネーの積 (π×M-1) の和であり (S=⊿M+π×M-1)、⊿Mは経済成長などにともなう通貨需要の増大に対応し、π×M-1は「インフレ税」に対応するものである。⊿Mは市中の貨幣需要[注釈 4]により上限があり、安定的な経済成長下では貨幣需要は増加するものの、低成長の場合はむしろ減少することがある。政府は一時的な財政支出により通貨需要を増加させることができるが市中の貨幣需要は自律的な保有動機に基づくものであり、経済成長に伴う貨幣需要が増加しない限りベースマネーの水準は元の均衡水準に戻ってしまう。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8B%E3%83%A7%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B8?fbclid=IwAR1y7LN4HtR_iyHCv_PW5RAPOkg-nKs0Zl28vqzcmUAQlnA1v6mHESaV1iU

 これは、対政府と国民経済の中で考えられているモデルだけど、限定された条件下では、政府にとってのフリーランチはあるということが示されている。特に中国では、GDP比5%に達していたこともあるらしい。

経済にはタダ飯(フリーランチ)は無いのが普通であるが、経済成長に伴う通貨発行益は数少ない例外であり、通貨発行益を主な財源としてあてにするのは大きな間違いであるが、経済成長が続く限り(特に発展途上国にとっては)安定的な補助的財源としては優秀なものだとする。中国の経済構造はこの点で特筆すべきものがあり、中国政府の財政における通貨発行益は非常に高く、GDP比5%を超えている。しかしインフレ税に頼る比率は約3割にすぎず、7割は成長にともなう果実としての通貨発行益である。ただしこれが今後も続くかどうかと言う点については慎重であるべきで、経済システムが成熟するにしたがって貨幣選好は低下し相対的な貨幣発行益は減少する可能性がある。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8B%E3%83%A7%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B8?fbclid=IwAR1y7LN4HtR_iyHCv_PW5RAPOkg-nKs0Zl28vqzcmUAQlnA1v6mHESaV1iU 

 そうすると、このフリーランチは経済全体を合算したときにどこに回収されるのだろうか。例えばGDP成長率が10%だとして、フリーランチがその半分であった場合に、成長率とは何だろうか。

さらに興味深いのは、これを政府と国民経済のフレームから、国全体に移動させた時に何が起きるのか。

経済の中にはフリーランチはないはずで、どこかの国の優位は為替変動か何かで吸収されるはずだけど、S=⊿M+π×M-1を例えばアメリカ全体と対世界で考えたら基軸国通貨は、世界全体の経済成長に対する貨幣需要としての⊿Mと、米ドルのインフレ率M-1をSとして享受できるはずだ。

アメリカや中国は、⊿Mの貨幣需要を一国の経済を超えて伸ばすことができる。貸付や政治的な力を用いて影響力を伸ばせる。そのことが国全体としてのインフレ税の効用を高めることができる。この両輪で経済成長とは異なったエンジンを手に入れることができるのではないだろうか。

これの近似値を出す方法として、国全体のバランスシートを用いることができるのではないか、というのがぼくが考える仮説で、実際にはほかにもいろんな変数があるけど、基本的には、この国富の自己資本を計算する式 ( S=(インフレ率×流動資産)+株式+固定資産-(インフレ率×負債)-金利収支 ) で、近似値を出せるのではないだろうか。つまりインフレ税の影響を出すことで、だいたいのSが出せるのではないかという仮定。実際に計算してみたものが以下。

この金額が実際にいくらかを見ていくと、

 1256531.28億ドル−1238000億ドル=18,531億ドル(今の相場で、197.47兆円)

になる。

これは、2019年のアメリカのGDPから2018年のアメリカのGDPを引いた名目値、8,500億ドル(213446.7億ドル-204940.5億ドル)よりもずいぶん大きい。

もしかしたら、これは資本収支のプラス側に出てくる数値の一部かもしれない。

http://oror.hatenadiary.jp/entry/2019/08/19/195617

⊿Mはドル貨幣自体の需要なので、世界全体の流通量を考えたら出るのかもしれないが、計算としてどうしたら良いのかがわかっていません。

導きたいのは、一国の経済、例えばアメリカの実質GDPに対してその国全体のSが与える影響があるかどうか。Sが予想以上に大きい場合に、実質GDPと見えているものが、国富全体から生み出されるシニョリッジ・フリーランチを源泉としていて、うまくかさ上げできたりするのかどうか。そして、それを意図して設計できるようになるか、が関心です。

中国政府のシニョリッジが高かったということから、この設計はある程度意図してできそうで、今の世界経済の中では結構大切な戦略なんじゃないかという気がしています。色んな競争戦略はあるのだけど、資本構成から生まれるシニョリッジを使って成長を吸収するという戦略がひとつあるのでは。

さらに、この仮説の拡張としては、逆シニョリッジ・逆フリーランチとして国の自己資本がマイナスになる状態が条件が整うとありそうだと思っています。

具体的には、上記の式 ( S=(インフレ率×流動資産)+株式+固定資産-(インフレ率×負債)-金利収支 ) で、資本構成次第では、インフレまたはデフレに対してマイナスに反応する資本構成がある。このあたりも興味深い