心理学的経営 抜き書き

心理学的経営で気になったことを書いておきます。あんまり本編の部分じゃないけど。

河合隼雄教授との対談での言葉を引用しておこう。

自己実現という意味での個性化の問題は、ユングは人生後半の課題であると言っていますね。前半はとにかく世の中で成功しなきゃいかん。あるいは社会での自分の地位を自分なりにきちんと見つけなきゃいかん。そして人生後半になって眠っていたもう一人の自分、もう一つの才能に気がつく。ところが今の若い人には人生の前半から、この人生後半の問題が押しかけてくる。困ったことに人生後半の問題に若者が取りつかれると何をするのも面白くなくなるんです。就職したって、金儲けしたって、何だ、というわけで無気力になる。これから人生後半の問題に前半にして取りつかれた若者の問題がますます大きくな問題になるでしょうね。」

p.214 

 性格類型検査TI(MBTI)を用いたマネジメント研修について

TI(という性格のタイプをそれぞれに調べたうえで)をフィードバックし、タイプごとにあるいはシャドウ(自分とは真逆にいるタイプ、内向的な人に対して外向的とか、感覚的に対して直感的とか。) のタイプ同士を組み合わせ、このグループを編成して、グループワークを行う。この形式の研修は、トップマネジメント層をはじめとするあらゆる階層別研修としてすすめることが可能であり、そらに職場ぐるみ、組織ぐるみの研修としてもチームビルディングの上でもTIならではの効果が期待できる。

そして、職場の人間関係のなかでも各メンバーがTIを通して「自己開示」をはじめて経験し、それぞれの「個性化」の問題を共有できることが新たな人間関係へと発展する契機ともなるのである。

p.215

 面白いのは、この性格検査が別に自分の認識を確かめるためのものでしかなくて判定のためのものではないというところ。自分が適応のために使い続けている「心のくせ」みたいなものを見つけて、そこを伸ばすのは基本的にありだけど、それによって無理してないかとか、自分でも感じ方や考え方を変えることで何か違う角度から考えが深まらないか、みたいな感じも含んで捉えられている。

 外向型の人は、内向的な面を持っていないわけではない。感覚型の人は直感的な知覚的機能をもっていないということでもない。しかし自分にとって使いやすい得意な機能をもっぱら使うので、発達が促進されタイプを形成するのである。

p.211

 つまり、性格があらかじめ決まっているわけではなくて、あくまでも利き手のようなものでしかない、という考え方だ。何か興味深い。何か今とは違うセンスを感じる。1993年の本だけど。

 そして、セルフリポートにもとづいて採点された結果ではあるが、テストの結果をフィードバックして、自分にとって最も納得のいく「自分」を確認するために、チェックリストを用いてベストフィットタイプを探し出してもらうという実習を行う。(つまりテストの結果を見ながら、タイプを変更していく。)TIの結果のタイプがベストフィットタイプの実習によって変る人はごく少数だが、この過程がタイプ論を誤解なく受け入れるために大切である。TIを複数回受けた経験のある人も少なくないが、なかには結果が変わる人もいる。こは測定の信頼性という問題よりも、「自己概念」の安定性という問題としての意味が大きい。何回受けてもタイプが変わらない人は、自分のタイプを自己受容している人が多い。そういう人は、自分のタイプを肯定的に受け止め、内面は葛藤があるにせよ、比較的安定した自己概念をつくりあげているといえるかもしない。また結果が比較的よく変わる人もいるが、そういう人は、自分のなかに両面性を自覚しているところがあって、一つのタイプに自分を固定することを必ずしもよしとしない人たちである。しかもそのときどきのテストの結果は、当人にとって納得できるものでなければ意味がない。ベストフィットタイプを探す意味はいずれにしても重要である。

 なんで、自分のタイプを探すと良いかというと、その中で自分と反対のタイプというのが出てきて、それを想像したり、真逆のタイプ認識のある他者と出会うことで気づきがでかくなるからだ。ということらしい。

あと、「問題解決のジクザグモデル」もよかった。それぞれに得意な性格的な機能があるけど、実はどれが欠けても問題解決はできないので結局全部必要だよね、という結構身も蓋もない感じの話。では、タイプとは・・・。

感覚(S)→→→→→→→直感(N)

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思考(T)→→→→→→→感覚(F)

という感じで進んでいく。/がうまく矢印で書けてないけど斜め左下に進んでいます。

どの機能が欠けても最適な解決は期待できないのである。Sが欠けては状況が事実に基づいて見えてこない。Nが欠けると新しい手段や方策への洞察が働かない。Tが欠けると合理的な結論に至るという決定ができない。そしてFが欠けるとその結果が周囲にどんな影響を与え、人々がどう受け止めるかという感情への配慮が欠けてしまう。

どのタイプの人も、自分のもっとも得意とするところを存分に発揮した方がよい。たとえば、目の前の問題をどんどん解決していく実務的な実行力を求められるところでは、感覚(S)機能を支配的機能とするESTPタイプやESFPタイプなどの外向・感覚タイプが強みを発揮する。しかし、複雑なことがらについて合理的な計画を立案するような事態では、思考(T)機能を支配的機能とするESTJタイプやENTJタイプなどの外向・思考タイプがより有利ということになるだろう。また、一つのことに集中して原理的な課題に取り組むには内向・思考(IT)タイプ力を発揮するに違いない。

しかしどのタイプにとっても、障害はそのタイプの最も未発達な劣等機能に関する領域で起こりがちであることに留意しなければならない点である。自分の性格タイプを知ると同時に、職場のメンバーがお互いのタイプ情報を共有することの意味はお互いの問題解決スタイルを確認することによって強みを活かし、弱点を補うというチームビルディングに役立てることにある。

p.195-p.196

リーダーシップの四要因

第一因子は「要望性」と名づけた。これは部下に指示を与え、能力の最大限の発揮を求め、生産性を高めることを指向した行動である。

・・・

第二因子は「共感性」である。部下の気持ちを受容し、部下の行動に思いやりと支持を与える機能である。良好な人間関係や自由な雰囲気を醸成することに結びつく行動である。

・・・

第三因子は「通意性」である。仕事を進めていくうえで必要な意味のある情報を十分に提供すること・・・「寄らしむべし、知らしむべからず」ではダメで、大事な情報を上司と部下とがしっかりと共有することの必要を、この第三因子は教えている。

・・・・

第四因子が「信頼性」の機能である。・・・部下からみて、上司を管理者として能力的に、あるいは人間的に信任に値するか否かを問うているからである。 

p.120

 小集団・集団規範

組織のなかの人間の行動を最も基本的に支配しているのは、フォーマルに定められた就業規則でもなければ、社是や社訓でもない。組織の指示、命令系統によって上司が部下を動かすということはもちろんあるが、「上司の命令」を実際に感情のレベルでどのように受け止めて、どのように行動しているは、職場という集団のメンバーとの間に共有された心理的な規範によっているのである。

・・・上司からの指示のようなフォーマルな影響力によってではなくて、自分が心理的に所属している集団のなかで形成されている規範に人々の行動はしばられ、支配されるのだが、ある個人が、その規範に同調し、準拠している集団のことを、その個人のリファレンス・グループといっている。

p.64 

 自律性と自己決定

その点、職場における小集団活動の場合は、もともと、自律的な小集団の育成を通して、個々人の個性の発露や創造的活動、さらには組織への積極的参加を促すことを狙いにしているだけに、自律性も高く、公式的な組織における業務遂行のなかでは、ほとんど期待できない自由な発想や現状否定、そして集団思考によってもたらされるイノベイティブな風土の醸成にもつながってくる。 

p.69