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日本経済にFintech(フィンテック)が果たす限定的な役割

日本経済においてFintech(フィンテック)が果たす役割を、資本市場との関わりからだけ考えてみる。
ただ、資本市場との関わりとFintech(フィンテック)の活動領域はほぼイコールなので、下記がFintech(フィンテック)の活動の範囲で限界でもあるんじゃないかというのが、今のところ私見としてはあります。(決済系とか、ブロックチェインとかがないんですけど、その辺りは「日本経済にとっては」まだ、あんまり大きいインパクトではないかもしれないので。)

1・背景 日本経済

日本経済の背景としては、

  1. 資本の過剰が続いたこれまで
  2. 資本の減少が始まるこれから
  3. 資本の減少と強い貨幣需要が相反するニーズとして顕在化することが予測される

の三点が挙げられる。

これが理由となって、デフレからの脱出と資本市場の再活性化(資本市場でリスクをとらせる)が必要になっている。フィンテックはその部分で限定的に役割を果たすと考えられる。しかし、その後の時代で、バブル化した時に過剰なリスクを防止する有効な対策にならないだろう。その解決はテクノロジーではなくて、制度設計に係るので、時間がかかるだろう。その場合、バブルと崩壊のサイクルは避けられないが、デフレからの脱出にテクノロジーが一定の役割を果たしたよね、という評価が後世に残る可能性はある。

 1-1・資本の過剰が続いたこれまで
  日本経済の資本過剰は、戦後のハイパーインフレと強制徴税を背景とした結果的な「低い資本蓄積」があり、それ故に「高い経済生産性の伸び」を享受できたことによる。高い貯蓄率と高い資本投資が継続して高度経済成長を実現したが、その後、高い資本投資が相対的に不要になった80年代以降に、金融収益の優位が目立つようになってきた。その頂点がバブル経済であった。バブル崩壊後も、高い資本レベルは維持されたが、人口動態の変化によって家計貯蓄率は次第に下がり、ついにマイナスになった。一方で、高い資本蓄積は投資を行う企業にとってはリスクを冒さない理由にもなり得た。投資を行っても企業収益に及ぼす影響は短期的には軽微であるため、生産性を高める投資が忌避される原因に遠因としてはなり得ていた可能性がある。

 1-2・資本の減少が始まるこれから
  日本経済は、高いレベルの資本蓄積を維持しながらも慢性的な資金需要不足に苦しむデフレ経済に突入した。一方で、人口動態の変化(少子高齢化)により家計貯蓄率はマイナスとなり、マイナス幅は拡大する予測である。このため、これまでの資金余剰時代からゆるやかに資金不足時代に変化していくことが予測される。また、同時に高齢化の進展により消費のための現金需要や、老後のための現金貯蓄のニーズは高まる一方であることが予測される。これによって日本の資本(株式・土地などの非現金資産)が海外投資家に現金で売却されるスピードが速まることが予測される。

 1-3・資本の減少と強い貨幣需要が相反するニーズとして顕在化することが予測される
  日本経済は、上記の二つの減少、「貯蓄率の低下による資本の減少」と「強まる貨幣需要」の相反するニーズに直面することとなる。前者では資本が減少することによって、投資資金が不足し始め、長期金利上昇の原因になる。早期に投資計画を遂行することが求められるため前者は、投資を促進する効果がある。一方では後者は、投資家が自身が高齢者になることを見据えて早期に投資回収する強い動機になるだろう。そのため、後者では投資の早期回収と海外投資家への売却、及び現預金の増加を通じて長期金利の低下を促すことになる。この二つの動きを繋ぐものは、海外投資家と国内投資家の投資期間のギャップを埋める市場の働きである。資本市場が、国内投資家と海外投資家のギャップ(つまり人口動態のギャップ)を埋めるのであれば、日本経済の成長を促進する資金の流れが生み出されるだろう。国内投資家は短期志向・現金志向が強まり、海外投資家は長期志向・実物資本志向が高まるだろう。

2・ニーズを満たすサービス Fintech(フィンテック)

 2-1・異なるニーズを持つ経済主体をマッチング
異なるニーズを持っている国内投資家同士、海外投資家同士、そして、国内と海外の投資家、あるいは投資家としての自覚を持っていない消費者(だが、銀行サービス等を通じて間接的に投資家になっている人たち)をマッチングするサービスとしてのFintech(フィンテック)が提供されれば、その企業は成長するだろう。そして、日本経済も成長するだろう。端的にいえば株式市場や資本市場へのアクセスをテクノロジーで改善すれば、日本経済の成長も持続する。
 そのために「海外投資家が国内投資しやすくする」「国内投資家がリスクをとりやすくする(そして、現金回収しやすくする)」が考えられる。
 当初は国内投資家のリスクをもう少し多めにする施策が考えられるだろう。「国内の過剰に保守的な個人投資家に多少のリスクをとらせる」「国内の過剰に保守的な貸出主体に与信基準を細分化することで貸出可能にする」「国内企業に多少のリスクを取らせる」ことによって、「国内企業や起業家がチャレンジできるようにする」が考えられる。

 2-2・株式市場や資本市場へのアクセスを改善する
  当初は国内投資家の、その後は海外投資に対して、株式市場や資本市場へのアクセスを改善して資金流量を十分なものにすることがフィンテック企業の目的となるだろう。それによって新規投資を促進し、回収した資金を新しい投資に向ける流れを持続するための仕組みの一部としてサービスが機能することが求められている。そのために、考えられる方策として下記があるだろう。

  1. 投資家に理解できるストーリーを提供する
  2. 投資家の理解を深める情報を提供する
  3. 投資家が買いやすい商品を提供する
  4. 投資家が今まで買えなかった商品を提供する
  5. 投資家(無意識な投資家)の代わりにリスクをとる
  6. 海外投資家を増やす

  2-2-1・投資家に理解できるストーリーを提供する
   クラウドファンディングなどの投資家の共感を惹き出すストーリーに注力したサービスを作ることが考えられる。

  2-2-2・投資家の理解を深める情報を提供する
   既存のサービスの延長線にあるが、「ZUU online」などの経済情報を配信するサービスや、投資アドバイザリーサービスの進化が考えられ
る。

  2-2-3・投資家が買いやすい商品を提供する
   世界中のインデックスファンドに分散投資することでリスクを減らし、中長期的な資産形成を目指す「ウェルスナビ」のように、商品をパッケージして買いやすくする等のサービスが考えられる。

  2-2-4・投資家が今まで買えなかった商品を提供する
   これまで投資家が購入することができなかった商品の提供も考えられる、ベンチャー企業への投資型クラウドファンディングを通じた投資や、スマートフォンやインターネットを通じた小口金融への貸出、穀物などの商品やエネルギーを商品化したものに対する長期投資など、様々な商品が考えられる。

  2-2-5・投資家(無意識な投資家)の代わりにリスクをとる
   これまでは銀行が預金者の代わりにまとめてリスクをとって貸出を通じた投資を行っていたが、例えば大学の学費を代行して国際送金する「フライワイヤー」のようなサービスは、お金の流れを細分化することで企業の代わりに為替リスクを取り、そのリスクを束ねることで為替間のリスクを多国間で下げる。大量のフロートが得られれば為替に対してリスクを上げることなく収益を得ることができる。またアマゾンが提供する融資サービスなども資金のフローがあれば金融機関になれるという一例だろう。*1テクノロジーの発達によってこれまでリスクを細分化できなかった局面でもリスクを下げられるようになり、新しいサービスが生まれるのではないだろうか。*2

  2-2-6・海外投資家を増やす
   これまでは富裕層や大企業向けに提供されていた海外投資家向けサービスも個人化されるなど、新しいサービスの展開が考えられるのではないだろうか。カントリーリスクや、言語の壁、税金、国際送金、為替リスク、取引手数料や法律など様々な障壁があるが、アクセスを改善することで国内投資家から海外投資家への資本の受け渡しが速くなり、結果的に新規事業が生み出される速度も速まるのではないだろうか。
 また、この国際的な資金移動に伴う様々なリスクは、様々な収益機会をもたらすだろう。このサービスをうまく建て付けた企業が成功するのではないだろうか。

  2-3・ただし、リスク過剰・バブル状態からの不良債権化を避ける解決策にはならないだろう
   アメリカの投資家フラワーズが言うように*3、新しいフィンテック企業が生み出されても、容易にはリスクを過剰にとる傾向を克服できないだろうと考えられる。日本の場合にはリスク過小なので、当面は問題がないと考えられるけれども、バブルを防ぐためのインセンティブを埋め込むテクノロジーができたら本当にすごい。が、難しいようには思う・・・。アメリカの経済学者シラーは、金融リテラシーの向上と、会計単位をインフレ連動にすることを唱えているが、浸透までには時間がかかるだろう*4。テクノロジーで会計単位を自動的に計算しなおす等が可能になれば、かなり世界は変わるかもしれない。
 
3・結論 日本経済とFintech(フィンテック)

  3-1・投資機会、情報へのアクセス改善
  フィンテックによって改善するのは、投資家にとっては、「投資機会、情報へのアクセス」が改善するということになるだろう。それが、収益の増加を生み、投資資金の流入を生めば、チャレンジしたいと考える人が増加する。多くの人にとってチャンスが増えることになるだろう。最初の段階では、現預金を握る日本人投資家をどのように行動させるかが主眼になるだろう。

  3-2・国際的な投資のアクセス改善
 一方では、そうした投資資金は足が早く、現金化要求が強い日本人から海外投資家に移動していくことになるだろう。その移行期が上手くいけば、日本への投資資金流入は続くだろう。そのため二番目の段階では、国際的な投資資金の移動をスムーズにすること、及びその資金移動で収益を上げる事業者の参入を促進することが、継続した成長に必要になるだろう。

  3-3・会計/金融制度そのものの改善 バブルの抑止
 三番目の段階では、リスクが過剰になっていないかの監視と、リスクを下げることへの強いインセンティブ設計と、会計制度や投資家とのコンフリクトの解消が必要になるだろう。これは、金融制度や会計制度そのものの改善に係るため、実現可能性は低いものの、経済制度が持続するために、必要な改革になるだろう。

*1:http://biz-journal.jp/2016/03/post_14223.html

*2:ただし保険で議論されるように行き過ぎた細分化は、リスク要因となり得る属性を持つ取引を極端に弱くする可能性もはらむ・・・。

*3:http://www.wsj.com/articles/fintech-will-mostly-end-in-tears-christopher-flowers-says-1456411711?cb=logged0.3581777084618807&cb=logged0.886368828592822&cb=logged0.04982709209434688

*4:http://d.hatena.ne.jp/oror/20150604/1433392292