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「簿記と会計の再発明」 のための基礎を考える(4) 為替変動と企業ストレスチェック

経済

前回までのあらすじ

 バランスシートを使っている限り、経済には限界がある。その限界とうまく付き合うためにはどうしたらいいのか、ということを前回までで書いた。今回はバランシートを用いて簡略化された二国間モデルを検討し、実験的な環境でバランスシートのふるまいを検討してみます。また、企業財務のストレスチェックとしてデフレ/インフレ耐性みたいなものを計算してあげたら、役に立つのではないか、さらに世界経済をまとめたバランスシートがあれば経済運営が安定するのではという、アイデアを書きます。


インフレ/デフレが二国間のバランスシートに与える影響

 モデル化された二国間で負債がバランスシートに対して与える影響を実験的に考えます。実験的に考えているだけなので、実際のデータと照らし合わせてるわけではないのでご注意を…。

 対外債務国と、その国に貸し付けている資産しか持っていない対外債権国の二国があると想定します。もし、どちらかの国も固定為替制で同率のインフレが起きたとすると、以下のようにインフレは、借金をしている債務国に有利です。

 インフレが起きると、借金が目減りするので、その分貸付をしている債権国の資産がインフレ分減少し、その資産が債務国に移動します。シンプルですね。  

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 その反対のケースです。今度は固定為替制の下で、二国共にデフレになった場合だとどうなるでしょうか。この場合は借金をしている債務国はデフレに伴って借金が膨れ上がり損をして、貸付をしている債権国はその分貸付金の価値が上昇し利益を得ます。

 金本位制下のかつてのイギリスなどがこの立場を享受していたのではないかと思います。たぶん。

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 さて、金本位制が崩れる原因ともなった各国の通貨価値が勝手に揺れ動く事態。この場合どうなるか。厄介なのは、インフレとデフレが食い違う組み合わせです。

 借金をしている債務国が「インフレ」で、貸付をしている債権国が「デフレ」だった場合どうなるか。通貨の調整がなければ、どちらの国も名目上資産が増加します。これは変な話で、どうにかして帳尻が合わないといけない…。

 そこで、仮説ではありますが為替変動の要因として債権価格が実質的に帳尻が合うように為替調整されているんじゃないかというように考えてみました。インフレ率+デフレ率=債権国から見た債券価値の下落率なので、その下落率に見合った通貨価格の下落が実現することで、債権価格の減少が表現されます。*1実態としては、この下落が起きることを嫌って債権国投資家が債券を売却して自国通貨に換金することを通じて通貨下落が先んじて起きるのかもしれません。

 対外債務国は通貨安により実質購買力を失いますが、自国通貨建では債務負担が下がったように見えています。貸付をしている債権国は、為替差損により債権の価値を失いますが、自国通貨の購買力は向上しています。でも輸出には不利になります。

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 今度は、反対に、借金をしている債務国で「デフレ」が起きて、貸付をしている債権国で「インフレ」が起きた場合。この場合では、債務国側ではデフレで借金が膨れ上がり苦しい、一方で貸付をしている債権国はインフレで債権価値が縮小している。為替変動がなければ、どちらの国も損失が出ていて帳尻が合わない。

 先ほどの例とは逆に、自国債権の価値は、債務国のデフレ率+債権国のインフレ率=債権価値の上昇率になります。そのため、その債権価値は、変動為替相場に反映されるしかないので、為替相場は債務国通貨で高くなります。貸付をしている対外債権国は、為替差益を得ますが、購買力を失います。そして、借金をしている対外債務国は通貨高で実質購買力が向上しますが、輸出で不利になります。

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 と、いうことが二国間のバランスシート間のやりとりの簡略化されたモデルで実験的に考えられます。これを、さらに三つ以上の為替間で様々な資産を持ち合った状態でシミュレーションすると、債権価格を媒介にして、どのように為替価格が変動していくのが、予測がしやすくなる、かもしれないと考えています。

 

インフレ/デフレが企業間のバランスシートに与える影響

 以上の発展系で、インフレ/デフレが企業間のバランスシートに与える影響を計算することも可能だと思います。まずは、一企業のバランスシートのインフレ/デフレストレスチェックを計算することからはじめるのが手軽ではないでしょうか。

 そして、段階的に企業と企業が債権を通じて作る影響を計算し、最終手にはグローバルな企業と政府と家計が作るバランスシートネットワークに対して通貨価値の変動が与える影響をシミュレートすることができるのではないでしょうか。

 このシミュレートが出来れば、金融/財政政策の与える影響は、より明確になり、そもそもバランスシートを用いている限り生じるデフレ傾向に対して有効な政策を考えやすくなると思っています。恐らく、国富のバランスシートをすべての国が持っていて、全世界の国富のバランスシートを統計として完備すれば、かなり正確に政策運営ができるようになると思う。

*1:債権価格は、債務国通貨ベースでも、債務国の返済利息ベースでも変化しないのだから、通貨価格で表現される以外にない。