国富のバランスシート インフレ編

 インフレという現象は、その国の通貨が一国のバランスシートで多いから起きる。当たり前のようだけど、バランスシートベースで考えるとより正確にこの現象が発生していることが分かる。

現時点でのインフレ率 三位 

1位 ベネズエラ 121.738%
2位 南スーダン 52.813%
3位 ウクライナ 48.684%
世界のインフレ率ランキング - 世界経済のネタ帳

1・資源国だと現金が貯まってしまうインフレ

  ベネズエラは、世界最大の石油埋蔵量を誇る国だけど、インフレ率が高い。ある国で現金収入を得られる資産があって、それを国外に売却できる日々が続くと、必ずインフレ率が上がる。

 バランスシートの左側に現金が貯まるからだ。それを避けるためには、入ってくる現金をサウジアラビアのようにそのままスルーで国外に流すしかない。ロシアのインフレ率が高めなのも同じ理由だ。国内に投資をする必要があまりない資源国は、同様の問題を常に抱えることになる。

 アルゼンチンがかつて、1950年代にインフレに見舞われたのも1940年代に戦争景気で現金が世界中から集まってきたからだ。現金が貯まると一時的には、景気が良くなったように感じられる。けれど、必ずバランスシートは多くなったものを低く評価するので、現金の価値が下がってしまう。

 世界に接続された経済で、一時的に出た利益は、購買力をならしていくバランスシートの働きで必ずバランスを取り戻してしまう。

 

2・国内固定資本や貿易が破壊されたインフレ

 南スーダンや、ウクライナの場合だと戦争または内戦によって、収入源となる鉱山や工場が停止するという条件で、バランスシート上の左側の固定資産の価値が急減する。そうなると、自国通貨余剰になるし、代わりの自国通貨投資先もない。かつ外貨が入ってこないので自国通貨が売却されて、さらにインフレ+自国通貨下落がスタートする。自国通貨が下落すると輸入物価が上がるのでインフレが止まらない。

 これは、かつてルール地方を割譲させられたドイツと同じ条件で、現金リッチなわけでもないのにインフレスタートするパターンだ。最初は固定資本が何かの理由で価値を失うことがきっかけになっている。

 

3・インフレで国富の純資産が減る場合

 バランスシート上で現金が多くてインフレに弱くなっていると、インフレのプロセスが進むとバランスシート上で余剰な資本である現金の価値が下がるので、純資産が減少する。同時に資産インフレが進めば、純資産減少に歯止めがかかるが、内戦や戦争をしていると投資先がない、または操業できないという条件によって資産インフレを起こせない。また、もう一つの条件としてはアルゼンチンのように国有化を進めていると、資産インフレが起きようがない。社会主義圏から民主化した直後だったり、社会主義っぽい政策をとった国でインフレ抑制が難しいのはこの条件によるもので、人々が持っている現金を固定資本に変換できないとバランスシートの毀損が止まらないのだ。ベネズエラも国有化を進めていたのでインフレからの出口がなくなってしまった。また石油プラントそのものも株式公開されていれば少しは資産インフレの対象にできるかもだけど、産業の連関が深くないと受け皿としての深さがない。

 純資産が減少すると、購買力そのものが毀損するので国内的にもキツいし、国外的にもキツい。

 ちなみに、バランスシート上での負債はハイパーインフレとはあんまり関係がない。実際にインフレに影響するのは現金の使い道がなくなったり外貨の収入が途絶えるような条件の方で、負債が少なくてもインフレは起きる。

 

4・デフレで国富の純資産が減る場合

 一方でデフレに偏ってる国は、基本的に現金が貯まらないタイプの国だ。固定資本に投資をし続けるので現金がいつも投資に固定してしまう。こうなっていると、デフレが起きると純資産が減少する。アメリカやイギリスのように大量の負債を世界中に対して負って、調達した現金で大量の資本を蓄積すると、資産インフレが続く限りは見かけの純資産上昇を享受できる。

 だけど、この作戦だといつか資産インフレが止まった時にどうにかなってしまうだろう・・・。ただ固定資本が現金よりマシなのは、それなりに生産性があるからだ。現金を貯めこんでいる国の生産性を犠牲にしている疑惑はあるが。

 また、同時にアメリカやイギリスは自国通貨を切り下げていくので、世界的に見れば購買力は毀損しているので、名目が頑張ってるわりに何も増えていない状態が続くし、資産インフレに与らない人は貧しくなって、キレやすいサラリーマンやアルコール中毒気味の労働力として生きていくしかなくなる。

 基本的にデフレ気味の諸国は、インフレ気味の国よりもどう頑張っても自国通貨が上がっていくのは止めにくいし、資産インフレ気味に持っていくために通貨供給を増やして固定資本を貯めこめば貯めこむほどデフレによる損失が膨らむバランスシートになっていくことが止められない。

 本質的には、デフレの国は自国の固定資本投資をインフレ気味の現金リッチな国に向け直すべきだし、現金リッチでインフレ貧乏な諸国は、もっと自国のインフラ投資をデフレ国から受け入れるべきなのだ。

 あるいは、デフレ気味諸国は、公的資本形成に繋がらない「軽めの」公共事業を増やすべきかも。現金収入に繋がる児童保育とか、介護とかのサービス業公共事業を大量に増やせば現金比率が少しは改善してインフレ気味になるのではないか。あとアルゼンチンやベネズエラの失敗(成功?)例を見れば、資産インフレ抑制の最強の一手は国有化なので、今のように日銀がどんどん株式を購入するのは正解だ。この調子で日本郵政も、NTTもJRもどんどん国有化を進めていけば、現金の投資先が失われてインフレ基調にできるだろう。

 諸国のバランスシートのバランスが取れれば、少しはマシになるかもしれないが、ホームバイアスが強いからこそ、こんな感じになってしまっているので、そう上手くはいかないものなのかもしれない。