FinTec関連企業と金融の民主化ムーブメント

 金融とITを組み合わせる新しい事業領域として、FinTec(フィンテック)の注目度が高まっている。
 FinTecのプレイヤーの分類については下記の記事が詳しい。

 ・日本で注目のFinTech(フィンテックベンチャー業界マップ2015
 https://www.longine.jp/abstract?id=1519

  同記事によればFinTecのプレイヤーは4つのカテゴリーに分けられる、(1)中小企業向け支援サービス関連、(2)セキュリティ関連、(3)クリプトカレンシー(仮想通貨)関連、(4)投資ツール関連。(1)に関しては経理負担を下げるサービスということ、(2)は認証の正確性を高めるサービス、(3)はビットコインを経由してクレジット決済をするなどのサービス、(4)がプロ向け投資ツールの安価な提供を指している。まだプレイヤーの数は少なく、明確なスケーラビリティも見えていない段階と考えられる。

 ・国内唯一のFinTecピッチコンテスト fibc
 http://fibc.info/

 この中でも、市場スケールがあり明確なターゲットとメリットがあると考えられるのが、(4)投資ツールではないかと個人的には考えている。

 下記のような投資ツールの提供を目的とする企業はいくつか出てきている。
 ・WealthNavi(ウェルスナビ)株式会社
 http://blog.tech-camp.in/?p=273

 この文脈が興味深いのは、上記の分類で言うと、(1)〜(3)は、企業向けサービスであるが、(4)だけは個人向けサービスであるということ。IT利用でスケールするためには、個人向けであることが相性としていいのではないか、という素朴な直感からそう思う。(1)〜(3)で勝つためには、今あるサービスを向こうに回してシェアをしっかりと取っていく必要があるので、結構骨が折れそうな感じがしている。一方で、(4)は特に参入障壁が見当たらないので、レッドオーシャンの血を血で洗う戦いになりそうだが、既存の敵は過剰な収益をとっている金融アドバイザリー業であり、個人向け事業者は占い師のようなもので質も悪いので勝てそうな感じはする。結局、地道な改善と努力によって勝ち上がっていく企業が出るということなのではないだろうか。

 一方、バブルの抑制と「金融の民主主義」という論点からも、投資ツールの提供は興味がある。

 シラーによる「バブルの正しい防ぎかた 金融民主主義のすすめ」という本がある。
 

 シラーの主張は、バブル抑制のために(1)金融情報インフラを整備して消費者に正しい知識を伝えるべき。(2)会計単位をインフレ連動に変えるべき。(3)不動産先物市場を広げていくべき。(4)GDP債を発行し経済状況の変動に伴う損失を回避できるようにするべき。(5)リスクを移転するために、適宜返済型住宅ローン、住宅価値保険、生計保険を導入するべき、となっている。

 このうち、実現可能性が高いものが、(1)の金融情報インフラ整備と消費者への正しい知識の伝達である。その他の(2)〜(5)の制度的な改善は、まず市民が知識を得ていないと必要性が正しく認識されない可能性が高い。リスクとリターンの関係性や、過度な経済的変動が与える影響の大きさを正しく推し量れないと、政策に対する支持を得られないと思える。もし、資産の割合が大きく、安定した経済環境へのニーズがとても大きければ、自然とそのように法制度を変化させたいと思う人が増えるだろうし、そうでなければ、破滅的な政策へのニーズが高まるだろう。*1

 また、金融に対する知識を市民が増加させ、関与する度合いが高まることは、社会の全体としての安定性と、幸福の増大に繋がると考えている。ピケティが指摘するように資産が生み出す収益は歴史的に極めて高い、その場合、金融知識を持つか持たないかは、大きな社会的権力の偏在を生むことになる。偏在する権力は闘争の原因となるため、可能な限り水のように金融知識は共有されているべきであり、貧しい階層こそが金融の力によって、巨大なグローバル企業の巨額収益の配当を安定して得られるようにするべきだ。

 また金融機関の膨大な中間コストの問題はウォーレン・バフェットが指摘していることでもあるが、必ず削減されるべきものだ。今後、大きな収益源の移動が、金融機関からfinTec企業へと起きることになるだろう。それは「金融アドバイザリー部門」(4)の投資ツール、という、多くの人から疑問を呈されてきた部門で起きることはほぼ間違いないと、個人的には考えている。

*1:別の観点としては、バブルの原因が一国の制度的な問題ではなく、国際金融の特に変動為替を通じて発生する過剰評価の伝播も大きいと考えられているため、本当に制度改変だけで防止できるのかは疑問がある。