バブル経済への道

 政府と日銀の今回の金融緩和は、日本経済のバブル化を促進すると予測している。
 そして、崩壊は意外に早く2年〜3年程度で訪れることになるだろう。
 (似ている記事 「コラム:日本株、「80年代バブル」の二の舞あるか=丸山俊氏」 似ているけど、バブルにはならないという期待で締めくくっている)
 
 過去の事例から見ると、今回もバブル景気と共通する要素がいくつか見られるようになってきている。
 1986年〜のバブル景気と比較すると以下が指摘できるのではないかと考える。
 
[前提条件]
 1)1986年当時、日本は深刻な円高不況とデフレ圧力に苦しんでいた
  ⇒現在も、円高と、それに伴う企業の海外移転によりデフレが進行していた
 2)不況と、デフレに対処するため、公共事業拡大と公定歩合の引き下げが行われた
  ⇒安部内閣のいわゆるアベノミクスにより、公共事業拡大と黒田日銀総裁による金融緩和が行われた
 3)原油価格の急落により交易条件が改善。それを日本経済の潜在能力が向上したと誤って過大評価
  ⇒シェールガス・オイルの産出、中国の需要低下により原油価格は急落している
 4)1985年5月国土庁が「首都改造計画」を発表。「東京のオフィスは2000年までに合計5000ヘクタール、超高層ビルで250棟分必要となる」オフィス供給が国策となったと認識。業界が買い占めに走る。(ただし、この数値予測は正しかった。1990年の東京23区内のオフィス床面積は51,013千㎡となり、予測を上回るスピードで実現した。)*1
  ⇒2020年オリンピックに向けて、公共事業が拡大 前回同様15年後の予測に基づいて投資が拡大している。訪日観光客向けのビジネスとしてカジノなどが注目されている。
 
[発展]
 前提条件に加えて、下記が重要であると考える。

 1)国策がバブルの条件を強化している。
  1986年〜のバブルの場合、国際協調が重要視され金利を上げるという選択肢があらかじめ国策として制約され、バブルが温存されることとなった。
  今回の場合には、株価を政権が政策目標としていることは最早自明であり、そのことが投資家を勢いづかせることになる。
  しかも、国策として何かが推進されるとき、政策当局は他に選択肢を持たないことが多い。今回の場合は、膨大な国債発行が重荷となっており、政府としては絶対にこれ以上のデフレ進行が許されない。そのため、この道以外を政府がとることはできない。(本当は他の選択肢もあるのかも知れないが、集団的にこれしかないと、政府と日銀が思いこんでいる。)
  この条件こそが、投資家や国民に付け込まれる要因となる。政策を変更できないのだから、バブル崩壊までは投資家に負けはない、と考えられるし、実際政府も最後まで方針を変更できない。こうした条件は、バブルだけでなく通貨危機など様々な経済危機の原因になるだろう。政府と日銀が、ある賭けの方向でどんどんベットし続ければ、積み上がった賭け金に応じて、場の参加者は増加する。

 2)何らかの金融資産が実体価値以上に評価される
  1986年〜のバブルの場合には土地がそのメディアとして利用された。
  今回の場合には、端的に株式がターゲットになっており、株式市場がメディアとなる可能性が高い。

 3)その高い評価が、「日本経済への信頼」として心に刻まれる
  バブル化するための強い条件として、参加者が自己を強く信頼する、という要素がある。
  「株価が高いという評価があるから」⇒「日本経済は復活している、世界に冠たる経済大国として成長している」⇒「ひいては"私"は、その国民として成長している、強気に出て良いのだ」という認知構造になっていくのだと思われる。


[確信を裏付ける論理構成]
 今後の展開として、バブルを強化するお金の流れが生まれるかどうかが重要になる。
 実体価値以上の評価を受けた株式が、それを正当化する論理を持ち得るかどうか、である。


 ・「○○は永遠に下がらない」という確信が続くか

  原油価格の低下により、日本経済の公益条件が改善すれば、企業収益は向上する。
  そこに、法人減税などが加われば、単年度で、20〜40%の当期利益上のインパクトが出る企業は続出するだろう。
  株式の評価は、単年度の利益変動率を単線的に評価する傾向が強い(のではないかと推測している)ため、2〜3年程度同じような収益の改善が続けば、市場の評価額は、かなり上にズレていく。
  しかも、この評価はその数年間で見れば、見た目上は「正しい」ために、投資家の自信は強化されるだろう。
  さらに、ここに「円安」という要素をもミックスすることができる。
  単年度で、20%の円安が発生した場合、海外売上比率100%の企業であれば、売上/利益共に、1.2倍の成長を遂げたことになってしまう。
  アベノミクスによる政策効果で、「企業努力に起因しない、企業成長」を数年間であれば持続的に演出することができる。
  この「ファンダメンタルズ」によって、企業を分析する投資家が増えれば、彼らは極めて合理的に株式を優れた投資対象として評価することができるだろう。これは、商品のマーケティングとしてはとても有効で、数字の出そうなところから取り組んで、その数字を根拠として販売をするという手法として見習うべき点が多々ある。ただ、企業単体を円ベースでしか分析しない投資家を裏切る国家的な行為ともいえる。 *2



[崩壊のスケジュール]
 最後に、このバブルの継続期間に関しては、長くても3年間、おそらくだが2年程度で崩壊を見ることになるのではないかと考えている。これは、1986年〜始まったとされるバブル景気が、実感値としては、1988年〜1991年の3年程度でしかなかった、ということと、現在の株式市場の時価総額が、対GDP比で100%に接近しており、上値が最も大きい場合でも、+40%程度しか見込めないという理由にもよる。つまり単年度で、10%〜20%程度の上昇が続いた場合に、2年ないし3年ですぐに上限に達してしまうことが予測される。
 土地神話的な、膨大なキャピタルゲインを生み出す装置がないため、かつてのような高値を信じるのは難しいだろう。
 うまく資産効果を利用するとしたら、アメリカのように海外企業の買収をうまく進めることで収益性を向上させ続けるという方法がある。このソフトランディングが出来るかは若干懐疑的であるが、一番望ましい姿である。

  もし、これから市場に参入するのであれば、実体的な価値とマクロ経済的な価値と政策誘導的な価値を区別して、マクロ経済的な価値や政策の裏付けが剥落するかどうかに注視するべきではないかと思います。

*1:リンク先に示されているように、実は東京のオフィス供給は合成の誤謬的に過剰になっている可能性が高い。これが崩壊の引き金の一つになり得るかもしれない。

*2:完全に余談ですが、注目するべきことは、ある地域の通貨の「価値」が、その地域の「経済的な能力の神話」と結び付けられて理解されるという若干理解を越えた構造があることだ。本来的には、企業の価値と、その立地地域の通貨とはあまり関係がないはずだ。(為替へのヘッジをしているとするなら。)グローバル企業は、その影響を除去するために、通貨をボックス価格にした基準で評価をしている。
 しかし、政府と中央銀行というけた外れに大きいプレーヤーが自身の資産を賭け金にして、心理戦をしかけることができるということが現象として、非常に興味深い。数百年という単位では「金貨や銀貨の減価・増価政策」と似ているように思う。

 ヨーロッパ人が、南の国の植民地の元々住んでいた人たちを働かせるために、彼らの大切にしている石(だったかな)を取り上げてしまい、労働をしたら返してあげるようにしたら、途端に働き始めた、という話を思い出す。しかも、取り上げたといっても巨石だから、そこに「しるし」をつけることでしか所有権を示せないものなのだ。
 だから、ほとんど、価値があるようには思えない。でも、合意の上で価値だと信じているものは、価値になる。
 「貨幣」は労働を引き出すための、何か、だ。

 「貨幣」と信じられているものは、集団にとっての価値を「蓄積する」何かの象徴であり、それがあることで彼らは安心をすることができる。その指標が増加していることが集団にとっての「意味」を保証する。
 だから、人が大切に想い、そのために「働き始める」ためには、その価値を「奪う」必要がある。

 つまり、彼らが貯めていると「信じている」ものを奪い、傷つける必要がある。
 政府、日銀が行っていることも、そういう意味では伝統的な政策としての(円の価値を下げるという)収奪であり、誰かを富ませることで、他を働かせるという心理的な操作であるといえる。よく働く人は、最も奪われた人だということになる。
 
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