デジタルコミュニケーションが社会を変える 「コミュニケーションデザインの可能性」

Webを中心としたデジタルなコミュニケーションが我々の社会を変えています。その変化の中で企業は顧客とより深いコミュニケーションを築く必要性に迫られています。顧客との絆は共感によって生み出されます。共感を呼ぶコンセプトの確立と、共鳴する人々との継続的な対話の環境をどう作り出すのか、が問われています。
これらを解決するための、コミュニケーションの在り方、コミュニケーションをデザインする方法を整理したいと思います。

目次
【1】デジタルコミュニケーションが生み出した状況
【2】「コミュニケーションデザイン」という概念/情報大爆発の現在
【3】大量の情報を超えて/「気持ち」をタグにして伝える
【4】変わりつつある企業と顧客の立ち位置/コンセプトを中心としたコミュニティへの変化
【5】終わりに/未来の組織 互いに協力する社会の姿

【1】デジタルコミュニケーションが生み出した状況

日本の経済成長において、最も重要な課題は、Webを中心として発生した情報大爆発にどのように対応するか、そして大量の情報交換という状況を利用してより高次の生産性を達成するためにはどうしたらいいのか、である。
すでに大量の情報が流通していることが前提の世界では、その活用を行わない企業は、衰退するしかない。特に生産技術だけに頼ることができない先進国では、情報の加工・分析、高度化を高速で行い、商品の付加価値に転換し送り出すサイクルをいかにして行うのか、が重要度を増すだろう。つまり商品のライフサイクルをデジタルコミュニケーションを活用して今まで以上に効率的に速く回していくためにはどうしたらいいのか、という競争の時代に突入している。
それを念頭においた組織運営、顧客との出会い方を考えることは必須の条件となりつつある。
また、デジタルコミュニケーションの進展は、従来のチャンネルの価値を変化させている。顧客は、チャンネルを双方向なものとみなし、自分のために有益な情報以外は選別して受け取りを拒否しはじめている。提供者の優位性は、顧客といかに深いコミュニケーションを築くことができるかにかかっている。そして、そのコミュニケーションの成功のためには、共感を呼ぶコンセプトの確立が不可欠となる。
そして、コンセプトを伝えるための、本質的で有効なコミュニケーションプランを作りだすことが必要になる。また、顧客の声を受け取り改善を継続するコミュニティを作りだす必要がある。

そのために、必要な要素は、下記に整理される。

・ 「コンセプトは問いかけに」
コンセプトは、「問いかけ」としての性質を強めるようになり、理念への共感を抱き能動的に関わろうとする人々の集団を作りだし、繋げる役割を強めるようになる。それは問題意識とも言える。
・ 「メッセージ=心を掴むクリエイティブの役割」
顧客を教え導くのではなく、顧客の心に寄り添うコンテンツを用いることが必要とされるようになる。
必然的にクリエイティブの役割が注目されるようになる。
・「コミュニティ=顧客と共に作り出す場」
 商品やサービスは、完成されたものから、顧客の参加をもって日々コンセプトの実現に向かって進化していくものへと変化する。対話と改善のサイクルを作り出すことが重要となる。

つまり、「本質的な価値感を共有する強い集団が、同じ気持ちを持つ顧客に支えられて、さらに素晴らしい価値を世の中に送り出していく」というこの好循環を、メディアやWebの力を使いながら、作り出せるかどうかが、分かれ目になる。

【2】「コミュニケーションデザイン」という概念/情報大爆発の現在

これらの概念をつなぐものとして、「コミュニケーションデザイン」という言葉がある。
広告コミュニケーションの分野で活躍する電通の岸勇希氏のノウハウを実例とともに紹介する「コミュニケーションをデザインするための本」は、今後の日本の社会において、何が必要とされているのかに重要な示唆を与える本だと言っていいと思う。

コミュニケーションをデザインするための本 (電通選書)コミュニケーションをデザインするための本 (電通選書)

by G-Tools
同書の現状認識をベースにして、現在のデジタルコミュニケーションの状況と、その帰結を見てみたい。

同書によれば、
・ 過剰選択肢
・ 情報過多
の二つが、現在の状況を言い表している。

過剰選択肢とは、同じ24時間の中でも様々なメディアとコンテンツが作り出され、同じ人の興味を奪い合っている状態を指す。
それは、例えば、インターネット、ゲーム、本、雑誌、携帯電話、音楽などだと指摘される。それに付け加えれば、リアルなサービス産業もしのぎを削っているといえるだろう。サービス産業は参入障壁が低いが、参入者が多いため利益率が全体的に低い。だが低資本で始められるため起業数も多く、結果的に時間消費のバリエーションは増加し、高度化し、しかも低コスト化する一方である。
かつては、時間が豊富にあったが、今では時間に対して消費できる手段が多すぎていつも、人は時間が足りないと感じるようになっている。

情報過多とは、そのような消費可能な情報が定量的にどれだけ増加したのか、ということを指す。
総務省の「情報流通サンセス調査」http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/ic_sensasu_h17.pdfによると、平成7年と比較しての平成17年までの10年間において、情報流通量の異常な上昇を観測できる。

・消費情報量は、約13倍
・選択可能情報量は、約410倍

(平成17年度情報流通センサス報告書より)


つまり、我々は、消費できる情報の限界を超えた情報爆発にさらされている。
しかも、これは平成17年の時点の観測である。現在は、さらにそれを上回る情報が我々を幾重にも取り巻いているのだ。ただ、それが人間の認識能力を超えているので、気づきにくいだけで・・・。
こうした状況の中で、いかに優れたコンテンツを作り出しても、それだけでは誰の目にも止まらず、気づいてもらうことのない状況が進行しつつあり、この流れが止まることはないだろうと考えられる。私はこの情報爆発という状況に対処するために、二つの流れが生み出されていると考えている。
一つは、Googleに代表される巨大なデータベースを持つ企業による機械的なデータの統合=抽象化である。
もう一つは、信頼できる価値観を持つ人をフィルタにしたデータの統合と捨象=抽象化である。

大きすぎるデータの固まりに対して、例えばAmazonで買い物する我々は、パターンをAmazonのデータベースに提供している。提供されたパターンでAmazonのプログラムはデータベースとのマッチングを行う。必要とされていないと思われる情報をパターンがそぎ落とし、レコメンドという形で届けられる。
それ以外の膨大な商品群をサーチするという負担が、削減されているのである。
あるいは、自分と似ている価値観を持つと思われる人をTwitter上でフォローすることも一つの情報のそぎ落としである。その人のフィルタを用いて膨大な情報の中から、その人が価値を感じる情報が届けられる。この場合、マッチングに用いられるパターンは、フォローした人の脳の中に存在しており、我々は自分自身の脳内のパターンとの適合性を、人物の行動や、発言から推し量り、利用しているのである。
このどちらかの戦略を我々は組み合わせながら、我々は想像を絶する情報量が飛び交うデジタルコミュニケーションの世界を生きている。

そうした状況に対して、岸勇希氏は、コミュニケーションデザインという体感のデザインが必要になってきていると語っている。

そのポイントは、
・Webだけではなくて、リアルメディアを用いて一生活者として動きたいと思えるコミュニケーションを作り出す。
ことであり、コミュニケーションデザインの3つの意識として

・Neutral 固定概念や思い込みを捨てて、問題解決の方法をニュートラルに考えられているか
・Simple キャンペーンの構造がどんなに複雑だったとしても、生活者が広告に接触した瞬間のコミュニケーションはシンプルでわかりやすいものか?
・Faithful 課題解決に対して誠実に臨んでいるか?単に"新しいから""面白いから"など、企業側のエゴだけになっていないか?

コミュニケーションデザイン5原則として
・思いこまずにインサイト (肌感覚に頼りすぎない)
・課題解決のためのあらゆる手法、選択肢を考える (メディアから考えない、メッセージから考えない)
・メディアと表現を分離しない (生活者が広告に接触する瞬間を大切にする)
・仕組みでなく、気持ちをデザインする (技術や目的でなく手段)
・結果に固執する (広告の本質を忘れない)

をあげている。

【3】大量の情報を超えて/「気持ち」をタグにして伝える

さて、この厄介で届きにくいように見える世界の中で適切な人に、適切なメッセージを伝えるためにどうしたらいいのだろうか。ここからは、「コミュニケーションデザイン」というキーワードを通して見えてくるものを、私の視点から読み解いていきたい。

岸勇希氏が提唱しているコミュニケーションデザインは、「仕組みではなく気持ちをデザインする」という一言に要約されている。
つまり、これからのコミュニケーションにおいて重要なのは、「気持ち」を掴むことである、ということだ。
当たり前のようだが、これが重要な要素になる。そして、「メッセージから考えない」というキーワードが重要だと思える。メッセージを伝えたいのに、メッセージからスタートしないというのはどういうことだろうか。
それには、人間の理解のプロセスがかかわっていると思える。

高度化し複雑化した情報の渦の中では、何らかのシグナル、あるいはフラグ、もしくは、付箋・ラベル、雑多で混沌とした固まり、に見えるものに「意味」を与えるものが必要になる。「タグ」という概念はそれに近い。
ニコニコ動画で、「作者は病気」というタグをつければ、同様の動画との関連性の中で、位置づけて理解ができるようになる。関連性の中での理解とは、文脈理解のことである。

そして、文脈理解とは、類似する体験による理解のことでもある。(文脈理解のすべてが、体験の類似性によってもたらされるわけではないかもしれないが、ここでは、体験の類似に話を絞る。)「作者は病気」というタグは、同様の体験をもたらす複数の動画をまとめていることを感じさせる。

高度に集積された情報を理解し、整理するためには、人は、その情報量そのものではなくて、様々な類似の状況との照合関係によって理解を得ることができる。「株式市場って何ですか?」「まあ美人投票みたいなものかな。しかも、多くの参加者がだれを美人と思うかをお互いに推理する投票のような・・・。」http://www.nomura.co.jp/terms/japan/hi/bijintohyo.html ここでは、株式市場における情報のやり取りは一切触れられていない。つまり捨てられている。代わりに、ある体験が採用されている。聞き手は、美人投票という状況の参加者となり、審査員となっている自分を体感する。その時に、感じた「気持ち」が、株式市場の参加者の気持ちと同じものなのである。

このプロセスは、「気持ち」をタグとした異なる状況の橋渡しである。多くのコンテンツは、この構造を巧妙に利用している。コンテンツは、本質的に伝えたい情報のほとんどを意図的に捨て去る。あるいは隠ぺいし、そこに真意がないように装う。コンテンツは、本質的に伝えるべきものの影をその内部で消し去っていく。
そして、その真意を参加者にあらためて発見させるのである。獲得された体験は、その人固有のものとなり、強い価値をもつようになる。コンテンツの力は、参加者が自らメッセージを掴む構造にある。

このようなコンテンツの一例としては、「UNIQLOCKhttp://www.uniqlo.jp/uniqlock/があげられるだろう。
UNIQLOCKの基本的なコンセプトは、UNIQLOの理念である「服の民主主義(誰もが服ではなくて自分が主人公の人生を送れるようになる)」http://www.pickles.tv/weblog/sb.cgi?eid=571 (コンセプトサイト http://www.uniqlo.com/jp/introduction/) *1を伝えるというものである。だが、「UNIQLOCK」には、そのようなコンセプトの直接的な痕跡や主張は見られない。「UNIQLOCK」のコンテンツの中身は、時計として用いることのできるブログパーツである、ということ、ユニクロの服を着たクールビューティな日本人女性がパリで、機械的だが、パターンを読み切れない断片的なダンスをする、というものである。(「UNIQLOCK」誕生の軌跡 http://jobs.japandesign.ne.jp/aquent/tateyoko/08/index.html)*2
このコンテンツが直接的に満たす欲望は、自分のブログにお洒落な時計のパーツを付け足したい、というものであり、そのコンテンツの享受によってもたらされるのは、秩序正しいが予測できない美しいダンスの動き・女性を見ることができる、というものである。ここで、人が体感している「気持ち」とは、「身体の美しさの発見」であり、ことによると「人間存在への信頼の回復」であるかもしれない。だが、このテーマは、表面的には「お洒落なブログパーツ」という目的によって覆い隠されているため、このコンテンツは二重三重に真意が隠されている構造を持っていることになる。


お洒落なブログパーツ → 身体への賛美 → 人間への信頼 → 人間を中心にするユニクロの理念


というように、かなーり深いレイヤーでのみ、本質的なコンセプトがつながってくるという構造を持っているのだ。だが、こうしたメッセージは現在、真正面から語ると伝わらないことになっているものでもある。「創業150年 人間を大切に、お客様を大切に、地域を大切に、そして今、日本の未来を築く」と、言われても、誰も感動しない、ということである。

そこで、媒介となるのが、「気持ち」なのである。コンテンツあるいはクリエイティブとは、つまりは「例え話」のようなものなのである。ただ、単純に言ってしまうと伝わらないことをいかにして伝えていくのか。特に、膨大な情報に囲まれて防衛的になっている顧客に対してどのようにして、声をかけていくのかは、非常に重要なテーマとなりつつあるだろう。

コンテンツが人の「気持ち」をなぜ掴むのか、ということを考えてみると、ひとつのキーワードとして浮かびあがるのは、「同じ立場にたつ」ということである。

たとえば、「ドラえもん」というコンテンツで、人の心をつかむ機能を持っているのは「のび太」というキャラクターである。「のび太」は、いつもいじめられていて成績が悪く、モテない。このネガティブな要素が、観客側の防御壁を取り外す効果をもたらす。受け手は、自分自身の類似の体験の記憶を思い出し、その時の「感情」をタグとして、のび太に共感する。のび太を応援し、のび太が成功すると、自分も成功したような気持ちになれる。コンテンツが、見る人の立場と同じであることを、まずは表明しているのである。
太宰治が、強烈な支持を受け続けるのも同じように、強烈なネガティブな立場表明が、強烈な人の感情を呼び起こしているからだと考えられる。類似の体験を持つ人たちに、自分だけではない、という共感を与えているのだ。ネガティブな要素は、確実に「気持ち」を刺激する。
これは、「恐怖」や「不安」という感情が人にとって、重要な要素を占めているからだと考えられる。おそらく進化論的な問題で、生存に役立つ感情が占めるウェイトが大きいのだろう。多くの政治的な操作や広告手法でも、「恐怖」「不安」は、大きな力を持っていたことからも、それがうかがえる。時として、感情を体感することは、人の「気持ち」に深く寄り添えった時、とてつもない大きな力を持って世界に影響を与えるのだろう。
こうした感情に寄り添うということを「UNIQLOCK」は、ブログパーツが欲しい、という個々の「気持ち」に着目し、その立場にたつことで実現した。だからこそ、世界で多くの人に受け入れられたのだ。

そして、その核心に潜むメッセージ(コンセプト)が、うまく受け手が自ら獲得する体験になっていた時に、まさに受け手が求めていた価値感であった時に、人は「強い体験」をすることになる。

そして、メッセージとして伝えようとするときに、相手の現在の状態を知ることは、非常に重要であり、基本ですらあるだろう。だが、その基本的なことが、ようやくデジタルコミュニケーションの時代において、クローズアップされるようになってきたとも言える。
それは、顧客というひとくくりにされてきた人たちが、自ら商品を評価し、意見を表明するようになったから可能になったことである。彼らは、商品に対して、素直に気持ちで評価をし、その気持ちに対して同じ価値観を持つ人たちが反応する。本当に欲しいものを、手に入れるための手段が増えたのだ。
情報が高度化することで、「気持ち」という誰もが持っている能力を通じて、お互いに効率的に情報を伝え合うことができるような時代が生まれてきた、とも言えるだろう。

(上記のメッセージの機能を図式化 interfaceインサイトとは、人の心の壁を突破するクリエイティブのアイデアのことである。つまりコンテンツの機能を指している。)


【4】変わりつつある企業と顧客の立ち位置/コンセプトを中心としたコミュニティへの変化

さて、このようにして、「気持ち」を媒介として、同じ価値観を持つ人たちに訴えかけ、あるいは、自分でも気づいていなかったり、まっすぐすぎて考えることを止めていたりする人に、コンテンツとクリエイティブという手段で、同じ立場にたつことで訴えることに成功した時に、彼らメッセージを求めているだけではなく、行動する人として存在するようになってきているということが重要である。彼らは、コンセプトに対して、参加することを求めているのであって、完成した商品を届けられるのを待っているわけではない。商品は、コンセプトに対しての途中経過の回答でしかない。
本来目指されるはずのクオリティ、完成度、機能、効率性は、永遠の未来にある。コンセプトは、いよいよ、永遠の「問いかけ」としての性格を強めることになる。優れた問題意識は、多くの人の欲求を惹きつけ、その答えを生み出すための多くのパートナーとしての顧客を得ることになる。

かつて、企業の役割は、「企画」すること、「生産」すること、「評価」すること、の3つに分かれていた。本質的には、「評価」とは企業そのものにはできないことであり、最終的な利益を享受する消費者/顧客にしかできないはずである。だが、情報流通手段の限界によって、評価機能も企業が担わなければならず、あまりうまく機能していなかったというのが今までの実情ではないだろうか。評価のための仕組みや、人事制度を工夫しても、内輪で「評価」を行うことに限界があった。だが、デジタルコミュニケーションの進展は、このサイクルを本質的な価値を取り込みながら実現する可能性を持っている。

つまり、顧客は今までのように評価の仕組みに売上という指標でしか貢献しないのではなくて、理念やコンセプトの共感の強さで集まる多くの人たちの一部であるという状態に変化するのではないだろうか。
そして、顧客と企業という区分ではなくて、集団の中でコンセプトへの貢献の在り方が違うだけである、というように認識が変化する。
あくまでも、達成されるべき目的は、コンセプトであり、そのための手段は、そこに集まる人たちのパフォーマンスに依存しており、それが最適化される形で調整される。顧客と企業の役割が集まった人物の適性によって流動的に変化するのである。
そこでは、企業活動の壁は薄くなり、「企画」「生産」「評価」の各機能について、共感度の高い人が多くの貢献をするようになり、共感度の低い人は自然と別のコンセプトの強い影響下におかれるように生活をシフトしていくだろう。
このコミュニティをいかにして実現するかについては、以下のようなキーワードが考えられる。

・ 限定された対話(目的の明確化)
・ 否定されない仕組み(拡散の機能)
・ 評価される仕組み(収束の機能)

コミュニティの目的の明確化は、成功したコミュニティの共通項のようである。たとえば、Pixiv*3では、文章を投稿する仕組みが存在しない。あるのは、絵の投稿機能と、タグ付け(タグは言語で表現されるが)と、絵に対する星での評価機能だけである。絵を投稿する、という目的だけに集中することで、コミュニティの目的を拡散させず、また言葉による抑圧などの機会を回避しているのだ。
また、否定されない仕組みは、投稿者の資格が制限されないという意味では、多くのWeb上のコミュニティでは実現されているが、リアルなコミュニティに比べてWeb上のコミュニティでは、発言を否定することが多く行われているといえるだろう。探究の余地がある要素だと言える。比較的、Twitter上では否定されることが少ない環境が実現されているという指摘を佐々木俊尚氏が「ネットがあれば履歴書がいらない」にて、行っている。
評価される仕組みは、拡散した発言や情報に対して多くの人にとって有益なものを取り出すための機能である。Amazonの「商品への評価に対する評価」として取り入れられている「39人中、37人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。」方式の評価も、それにあたる。
評価が存在しない場合には、継続して参加しようとする意欲が働かない。また、質の高いコミュニティを作りだすためにも、評価の仕組みは必要だろう。

こうして、作りだされるだろうコミュニティの形は、まだ明確ではない。
だが、今までのような企業の商品とサービスのサイクルは、変化を避けられないだろう。
次第に、より高品質な商品を自然と生み出す人々の新しい生活が広がるだろう。
労働と余暇の区分は、見極めにくくなり、ある瞬間には顧客であった人が、次の瞬間には開発者になりかわっていくだろう。


【5】終わりに/未来の組織 互いに協力する社会の姿

こうして、コンセプトや理念に基づく強い集団が形成されるようになると、必ずしもその組織は、貨幣に還元される体系をもつ必要がなくなるかもしれない。もちろん、貨幣よりも生産費用を情報として適切に伝達する手段はほかにないため、なかなか、そういう未来が実現するとは考えにくい。しかし、そもそも貨幣は、生産手段を確保するために、どれだけの生産物が投入されているのか、その総量を知るために必要とされているため、情報の交換手段が貨幣を上回った場合には、貨幣が必要とされなくなる時代が来るのかもしれない。

と、いうのはかなり遠い未来の話である。
現在においては、優れた商品やサービスを作り出すために、より効果的なアプローチが可能となっている、ということが本稿の指摘したい点である。それは、企業という形で組織された集団が顧客と手を結び、より高い次元に成長していくプロセスの始まりを告げているともいえるのではないだろうか。それは、我々の社会の新しい形であり、情報のアンマッチングを減少させ、生産性の向上を飛躍的に成し遂げることともなるだろう。

我々が解決しなければならない課題は、高度化され抽象化される情報を、適切にシンボルに変化させ、相互のコミュニケーションを発展させるための、振る舞いの発見である。

こうして、我々は、自分の欲しいものを手に入れるようになり、自分たちの共通の課題を解決するために、互いに協力できるようになるのだろう。
それを、可能にするものが、

・ 問いかけ=問題意識
・メッセージ=クリエイティブ
・ 対話=コミュニティ

なのである。

(氏原大)


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*1:http://www.culturestudies.com/memdir/inte/uni/text.htm

*2:ユニクロ勝部健太郎さんの動画インタビューはこちら http://mitaimon.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/n-29b8.html

*3:『界遊003 1/2』――新刷フルカラー。インタビュー「ピクシブ社長・片桐孝憲の子育て論――pixivを巡る生成と育成」