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日本経済に必要なものとは 生産性の向上とは何を指しているのか

最近、日本経済の現状について勝間和代氏の提言を受けて多くのWeb上の議論が交わされました。

勝間氏は、そこで菅直人国家戦略担当相に対し、雇用改善のために、大胆なデフレ克服策を訴えた。日銀が大量の国債を買い取ることで、通貨発行量を大幅に増やしてインフレを呼び込むというものだった。

http://news.www.infoseek.co.jp/topics/business/n_deflation__20091112_2/story/20091111jcast2009253649/

これを受けての、いくつかの立場の反論が出ています。
そこで議論を整理してみました。その結果、立場は異なっても「生産性の向上」が必要であるという共通の認識があることが確認されました。そして生産性の向上が何を指しているのかを深堀りしていくことで、既存の財、すでにある商品の生産性の向上と、新規の財、これまでなかった商品の生産性の向上は異なるのではないかという仮説を導くことができました。
それにより、日本経済に必要なものは、新規財の需要を促進し、投資を拡大することで全体の生産量を増加させ、雇用を増加させることではないか、という結論を導きました。


対立する3つの処方箋

日本経済の現状、特に経済成長率の低下について、いくつかの立場の異なる主張がある。
それぞれが、対立する解決策を示しているため、どれが正しいのか誰もが決めかねている。

各論を整理してみると下記のようになる。


A・日本経済は国外からの安い輸入品によってデフレ化し不況化している。デフレ脱却のために国際競争力のある商品を作る新産業を規制緩和によって作りだすべきである。
B・日本経済は需要の飽和によって不況化しデフレ化している。有効需要を増大させるための財政政策が必要である。
C・日本経済はデフレにより不況脱出の糸口を掴めなくなっている。デフレ脱却のためのインフレ政策が必要である。


それぞれは、経済の現状に対していくつかの側面を切り出して原因を特定し、有効な解決策を示している。それぞれのモデルの中では有効なため、本当に必要なことが何かが分かりにくい。相違点ではなく、各モデルに共通する点に着目して議論をさらに整理してみる。

デフレに関する認識は共通である。デフレ状態にある、という認識は共通している。では、原因は何か。


生産性向上が先なのか、消費者心理の好転が先なのか

それぞれのモデルで、デフレの位置づけは微妙に異なっている。そのため解決策が異なってくる。
モデルAでは、他国からの低価格製品の流入や国内の生産性向上によってデフレが生じるとされている。他国よりも高い価値を持つ商品を低コストで生産する力、つまり生産性を高めることが必要である。一国の作り出す商品全体の魅力が競争的に上昇することが重要である。

モデルBでは、本来需要されるべきである水準から消費が低下する現象があることが問題視される。デフレによって、消費者の行動が消極的となり、それによって企業の投資活動が低下し、商品の生産量が低下し、デフレ状態が固定することになる。合理的な行動として全員が需要の低下を前提として行動した場合に、その予測が実現してしまうことが問題となる。その予測を覆すために政府の行動があるとされる。

モデルCでは、人々の物価低下予測を覆すための財政政策は、政府の赤字を生み出す。それは国民には将来の増税を予測させるため、彼らはさらに消費抑制的な行動をとる。また公共事業乗数効果の低さが問題である。そこで有効な政策は、インフレーションが発生することを多くの人に信じてもらうこと、その実現を助けるために貨幣を市場に大量に供給することである。


さらに整理すると、原因と対策は大きく二つに分けられる。
【生産性/競争力の不足とその解決】
 国際的な競争の中で、他国に勝る十分な技術開発や設備投資が行えていないことが原因である。まずは、その阻害要因を取り除くべきだ。政府による保護や育成は、むしろ産業競争力の促進を妨げる。

【需要の不足/悲観的な未来予測とその解決】
 技術開発が進まないのは、国内の需要が細っているため企業が設備投資を控えているためだ。企業の将来予測を好転させるために、まずは国内の消費者の行動をポジティブなものに変えなくてはいけない。そのために財政政策もしくは、金融政策が必要である。

結局のところ、二つの説は最終的には「生産性の向上」を目的とすることでは共通する。それでは、その「生産性」とは一体何だろうか。


生産性とは何だろうか

生産性の向上といわれるものを分解すると二種類の生産性を見出すことができる。
A・既存の財の生産性の向上
B・既存の財の生産性の向上に支えられて成立する新規財の出現

たとえば、ここに小麦だけを生産している経済があるとする。今までは、鋤や鍬を用いて生産していたが、トラクターの導入により生産高は3倍に向上した。
ところが、人口は増加していないため3倍に増えた小麦のうち、今まで消費していた量を除いた2倍の量の小麦が余剰になる。人口が変わらないのであれば、生産量を減らすしかない。したがって労働者の2/3は、失業せざるを得ない。失業は固定化し、政府は税によって無業者に生産物を分配するが、失業率改善を図ることはできない。
これが、A・既存の財の生産性向上であり、技術革新による失業のプロセスである。


しばらくみんなが困っていると、余剰の小麦の需要は人間によるものだけでないことが、発見される。「牛」に小麦を食べさせて牛の量を増やすことができるではないか。
失業者たちの一団が出資を募り、小麦を食べる肉牛を飼育し、精肉し販売するビジネスを始めることを決意する。余剰の小麦を利用した食肉産業が新しく生まれる。これにより、新規需要を賄うため小麦の生産量も増加し、小麦の生産者の雇用と食肉産業の雇用がともに増加する。
これが、B・既存の財の生産性の向上に支えられて成立する新規財である。技術革新による新規雇用が発生する。
この経済では、余剰の小麦を用いた新しい価値生産のビジネスが様々に生まれ、失業者が吸収され好景気が訪れる。

この場合、不況脱出の経緯は「牛」という自然物が財になり得るという発見と、「牛」を人工的に増加させるために小麦を用いることができるという発見である。
この発見こそがイノベーションと通常呼ばれているものであり、生産性の向上である。一方で、この発見が有効に機能するためには、起業家たちが、牛肉への需要が世の中に広まるはずである、という確信を持ち投資する必要がある。宗教的な理由により、この経済で牛を食べることが禁じられている場合には、起業家の仮説は成り立たない。
そこで、消費需要についても分解して考えてみる。


消費需要とは何だろうか

消費需要には、二種類の需要がある。
A・生活必需品の消費/既存財の消費
B・新規財の消費


小麦だけが存在する経済では、生活必需品は小麦だけである。
既存財の消費量は、必要とされている以上には増加しない、したがって年ごとの収穫の多寡がないとすればこの経済の成長率は毎年ゼロ%である。
小麦が年間3倍収穫できるようになったとき、この経済の成長率は200%に達するはずだが、実際には人間が急激に3倍のカロリーを消化できるようにはならないため、依然として生産技術の革新は、成長率を向上させない。したがって、この経済では既存財にかかわる革新は消費量の増加を生まない。
この経済は飽和しており、生産物への技術革新が積み重なるたびに失業が増加する。


では、新規財の消費はどのようにして生み出されるのか。
小麦だけが消費生活の中心だった経済では、牛肉という食品は目新しいものである。それが生み出す価値を消費の中に位置づけるためには、高カロリーがもたらす満足感、希少性を所有している満足感と栄養学的な正しさが必要となるだろう。
つまり、商品がどのようにして新しい生活、それも、より正しく価値の高い生活をもたらすのか、を説得する必要が起業家たちにはある。そのためには、当初は赤字覚悟で無料で食肉生活を啓蒙する活動を行う必要もあるだろう。あるいは、政府に、新規産業育成のためのプログラムを申請するかもしれない。このプログラムでは、牛肉を食べるたびに肉ポイントが付与されて、年末の確定申告で税金がポイントに応じて払い戻されるのである。
このような努力を通じて、消費者に牛肉への価値観が広がりはじめることで、生産量は増加し、収益化が可能となる。収益化された事業を見て、新規事業者の参入も増加し始める。それにつれて、最初は牛肉を食べると牛になってしまうと信じていた守旧的な消費者も恐る恐る食べ始める。
次第に新規産業は、社会に根付くようになり、経済全体は、小麦の生産量の増加に見合った規模へと拡大することになる。


既存在と新規在が相互に成長を促す

上記の議論により、供給側が大事なのか有効需要が大事なのか、に関しては整理がなされるのではないだろうか。
つまり、どちらも順序を追って起きる物事の一つの側面なのだ。


・既存財の生産性向上は、経済の成長の前提条件である。(しかし、既存財の生産性向上だけでは、経済は成長できない。)
・経済の成長のためには既存財の余剰により生産される新規財が必要である。
・新規財の消費の前提となるのは、新しい価値観の受容、つまり有効需要の創出である。(新しい価値観が受容されるまでには時間がかかる。その期間、失業が発生する。)


そのために、政府がとることのできる政策は下記になると考えられる。
・既存財の生産性向上政策
政府は新規財の生産余力を増大させるために既存財の生産産業に対する規制を緩和し、生産性の向上を促すことができる。
あるいは、経済が順調な発展を遂げていて価値観の転換を図る必要がない時期(例えば高度成長期の日本のような状態)には、生産性の向上を阻害するほどに社会資本が不足している場合に、公共事業により既存財の生産性を向上させることが有効になる。
既存財の生産性の向上は短中期的に失業の増大をもたらすが、生産性が向上していれば新規財による経済の成長性も高くなる。

・新規財の需要促進策
政府は新規財への価値観の転換を図るため消費者の行動変化をもたらす税制支援や補助金政策を行うことができる。
新規財の消費に必要な社会資本が不足している場合には、政府は新規財の価値を増加させる公共事業や知的インフラ整備を行うことで需要を促進することができる。
新しい価値観の広がりが早ければ失業期間が短くなる。


日本がとるべき道

これらのことから、現在の日本にとって必要なことは、新規財、特にエネルギー消費を削減する技術を用いた商品の消費を増加させることではないかと考える。エネルギー消費の低い、もしくはエネルギーを自ら生産する商品が上記の例に挙げた牛肉消費にあたる新規財である。
現在の日本では、既存財の生産性向上は着実に進行していると考えられるが、新しい価値を生む消費が定着していないことが経済の阻害要因となっている。(情報投資における生産性向上が行われているものの価値の創造は遅れている/サービス産業への労働人口の流入が生産性を低下させている) *1 *2
次の価値を提供されていない消費者は長期的な利益を見出すことができず細分化された消費とできる限りの貯蓄を行うようになる。
この新しい価値観は、CO2の削減目標という合理的な均衡を崩す人為的な価値観によって市場に持ち込まれたものだが、市場経済のメカニズムの中ではエネルギー消費量の削減という生産性指標に置き換えられていくことになるだろう。
つまり、低エネルギーな新規財が日本全体に導入されることによって日本経済全体のエネルギー輸入量が減少し、貿易収支が改善する。
また、必要とされるエネルギーが少なくなることによって、生産性が向上し、さらなる経済拡張のための資本整備に結びつく。
実際には地球環境の保全が重要なのではなく、エネルギー消費が減少し、さらに生活コスト生産コストを低下させる投資に、消費者を巻き込むことができることが、重要となる。
この投資は、行われるほどに技術革新を生み出し、生産性の向上が生産性の向上を生み出すことになる。
したがって、当面政府がとるべき政策は、エネルギー消費量を抑える技術への投資/消費が活性化し日本経済の長期的利益に結びつくような政策的な誘導であり、その技術革新を促す技術的知識の共有が円滑に行われる仕組みづくりである。


その場合に、行うべきではないのは、政府そのものが技術の開発者や販売者となるべきではないということである。政府には市場からの評価が及ぶことがなく、有益な商品の開発に必要な情報を得る動機と仕組みがない。
政府は、公共財の供給、特に知的資本の整備と、インセンティブの提供による消費者の需要のコントロール(平たくいえば価値観の経済的な誘導)を行うべきである。
技術的な基礎情報や、政府統計などには誰もが無償でアクセスできるように情報基盤を整えるべきである。
また税制などによるインセンティブの提供は、初期の量産効果が出るまでの消費の下支えとしてのみ使用するべきで、恒久的な制度とするべきではない。


おそらく、現在の政府は限定的な財政政策に近いうちに傾くことになるだろうと思われる。
その場合には、無差別な公共事業を実施するよりは、選択的な投資を実施し消費者の需要を新しい財に傾斜させる方が景気回復は早いのではないかと考えられる。 
(下記に池田信夫氏のブログを引用したように特定産業の保護は、産業を育成することにつながらない可能性がある。産業の保護ではなく消費することの価値を成立させることが重要だ。自動車を買うことは今や都市部の住民にとって当然ではないが、かつては自家用車の所有に価値があった。そのような意味での消費行動の創出がなければ短期的には既存財の効率化が優先され、失業の増加が食い止められない。) *3 →脚注先にあるように、米国では政府が投資家としての役回りを演じている。



参考Webページ・文献

日本経済の長期的な成長力(潜在成長率)を引き上げるためには、企業の国際競争力や収益性を高める必要があるが、それを特定産業の保護によって実現することはできない。政府が補助金で「育成」しても、企業が自力で競争できる力をつけないかぎり、成長を長期的に維持することはできない。むしろ農業に典型的にみられるように、政府が介入して競争を制限することは産業を壊滅させてしまう。…
ずれにせよ成長戦略とは、環境とか福祉とか特定の産業を政府がターゲティングして補助金で育成することではない。そういう政策は(主観的には善意であっても)結果的には競争を制限し、国内市場を海外から隔離し、企業の生産性を下げてしまう。スパコンを競争力のないITゼネコンから海外に売れない高価格で調達することは、ミルトン・フリードマンのいう「死の接吻」である。成長戦略とは、規制改革によって(資本・労働市場を含む)市場を競争的にする競争戦略であり、そのための予算はほとんどいらないのだ。

池田信夫 blog

(1)日本経済の期待成長率の低下
企業規模が年々大きくなっていくと期待できるわけではないので、長期雇用を保障したり、年功賃金制を維持することが必ずしも経済合理的ではなくなってきている。

(2)グローバル化
グローバル化には、格差を拡大する側面と格差を縮小する側面とがあり、全体的には中立的であるとされる。ただし、日本の場合には、中国をはじめとした近隣諸国の産業化に伴い、それらの諸国との間で「要素価格均等化」の圧力を強く受けるようになっている。

(3)情報技術革新の進展
広範囲にわたる情報処理がコンピュータに委ねられるようになり、ホワイト・カラーの「中抜き」現象が起こっている。比較的時間をかけて技能を積み上げていけるような職種が減少している。他方で、高度な判断力や専門的な知識を持った人材に対する需要は高まっている。

(4)ワーク・ライフ・バランス
労働力人口中での女性や高齢者の割合が高まり、それぞれの家族形態やライフスタイルに応じた多様な働き方の形態が求められるようになってきている。

このうちの「要素価格均等化」について補足説明をすると、労働力そのものを海外から受け入れなくても、自国での労働集約的な製品の生産を止めて、労働集約的な製品は海外から輸入するようにすれば、間接的に労働力を輸入したのと同等の効果が生じる。同じことは、土地についてもいえ、土地そのものは輸入できなくても、農産物は海外から輸入することにすれば、自国の農地を他の用途に転用できることになる。したがって、貿易が活発に行われると、それだけで両国の間で賃金や地代の水準のさや寄せが起こることになる。これを経済学では「要素価格均等化」といっている。

(2)のグローバル化の結果として、こうした「要素価格均等化」のメカニズムが容赦なく作用するようになっており、日本の労働者の賃金には結果的に引き下げ圧力が強くかかっている。そもそも「同一労働、同一賃金」が公平であるとすれば、日本人だからというだけで、同一労働をしているにもかかわらず他の東アジア諸国の労働者よりも高い賃金を得るというのは妥当とはいえないことになる。人的資本としての生産性の高さがあってはじめて、高賃金は正当化される。

また、(3)の情報技術革新の進展は2極化をもたらす基本的な原因になっており、かつて文系の大学卒がやっていたような「そこそこの仕事」がなくなっている。単なる情報処理をやるだけなら、PCの支援が得られる現状では、大学卒の労働者は過大能力であり、「評価」や「判断」の必要な職務をまかせるには過小能力だという状況になっている。こうした状況を反映して、米国では高卒と大学卒の賃金差が縮小し、大学卒と大学院卒の賃金差が拡大する傾向がはっきりと出てきているという。

大学生は勉強しなくていいのか – アゴラ

デフレスパイラル
経済全体で、供給過多、需要不足が起こって、物価が低下する。商品価格が低下すると、生産者の利益が減り、利益が減った分だけ従業員の賃金が低下する。また企業の利益が減ると雇用を保持する余力が低下するので失業者が増える。従業員と家族は減った賃金で生活をやりくりしようとするため、あまり商品を買えなくなる(購買力の低下)。その結果商品は売れなくなり、生産者は商品価格を引き下げなければならなくなる。
物価が下がっても、名目金利は0%以下に下がらず、実質金利が高止まりし、実質的な債務負担が増す。債務負担を減らすために借金返済を優先する企業個人が増え、設備投資や住宅投資が縮小される。投資の縮小は総需要の減少へつながり物価の低下をもたらす。
上記のような循環がとどまることなく進むことを「デフレスパイラル」と呼ぶ。政府による買い入れや物価統制など直接的な手段が有効であるが、現代の経済においては消費者物価の継続的な低下に対して金融緩和や量的規制緩和、為替介入などの金融政策で対処することが多い。所得税の累進性や社会保障はビルト・イン・スタビライザーの機能をもつため物価の安定に機能するとされている。

デフレーション - Wikipedia

公共投資政策ないし投資の国家管理の本質は、単なる有効需要の付加ではなく、政府による公共投資が企業家のマインドを改善することで経済全体の投資水準が底上げされ得るという点にあり…

ジョン・メイナード・ケインズ - Wikipedia

雇用調整の広がりにより、個人消費、住宅投資といった家計部門の需要にも多くを期待できない中、政府による景気対策についてもその効果に限界があるとすれば、日本経済の悪化に歯止めをかけるには、海外経済の助け、すなわち外需の持ち直しが不可欠だ。日本の輸出は全地域に対して悪化しているため、その持ち直しは容易ではないが、少なくとも世界経済への影響度が依然として大きい米国経済の悪化に歯止めがかかることは必須だろう。米国経済の悪化に歯止めがかかれば、中国経済やアジアNIES等外需頼みかつ日本経済と連関が強い国・地域の経済も徐々に下げ止まることが期待できる。
過去の日本の輸出(数量)と世界経済成長率から試算すると、世界経済が1%成長すると、日本の輸出(数量)は少なくとも2%程度は増加する。中国経済のプレゼンス拡大や資源国の影響力の増大等、世界経済の構造も年々変化しており、この関係も安定的とはいえないが、日本経済がとりあえず最悪期を脱するためには、輸出の持ち直しは大前提となる。そして、輸出の持ち直しは、米国、中国をはじめ世界各国が取組んでいる大規模な景気対策に頼らざるを得ないのが現実だ。
それでは、この視点から日本が出来ることは何か。海外経済の成長が日本の輸出増につながる道筋を確保すること、即ち保護主義的な動きを阻むべく最大限の努力を払うことではないだろうか。内外の景気対策の早期実施、日本の輸出の持ち直し、国内民間需要の底打ちという経路を辿って景気悪化に歯止めがかかることで、はじめて深刻なデフレスパイラルを回避することが可能となる。

http://www.mizuho-ri.co.jp/company/info/viewpoint/20090212.html

(デフレ下でのサービス価格の下方硬直性をもたらすサービスの特性)
 このようにサービス物価が低下しないことの背景を考えるため、需要面からの「サービス」の属性と供給面からの「サービス業」の特徴を整理する。
 まず「サービス」の特徴として、所得弾力性が財に比べて高く、価格弾力性は財に比べて低いことが挙げられる。総務省「家計調査」における選択的消費は所得弾力性が1より大きい品目と定義されているが、一般サービスに分類されるサービスのほとんどが選択的消費に分類されており、所得弾力性の高さは明らかである。また、価格弾力性についてはサービスには在庫がない(生産と消費が同時)こと、及び多くのサービスは時間消費型であることがその背景にあると考えられる。在庫が存在しないことについては、価格が低いと思う時に買いだめしておくような時間的な移動が不可能である。また、価格が低い国のサービスを日本にいながら消費するような空間的移動ができず、地域独占に結びつきやすい。こうしたことから、消費者の選択肢が狭まりやすいと考えられる34。また、時間消費型のサービスについては、有意義な時間を過ごすためのサービスであって、価格よりも品質あるいは他との差別化が重要と考えられることや、そもそも消費に多くの時間が費やされることはおのずと需要が飽和しやすくなることを意味する。したがって、財に比べてサービスは価格が変動しても需要量があまり変化しない(価格弾力性が低い)と考えられる。このような仮説の検証として財・サービスごとに実質消費を実質可処分所得と相対物価で説明する簡単なモデルを推計すると、サービスは財に比べて所得弾力性が高く、価格弾力性が低いとの結果が得られる(第4-2-7表)。
 次に、「サービス業」の特徴としては、非貿易財を扱っていることから製造業に比べて海外との競争にさらされることが少ないことが挙げられる。これに加えて、労働集約的で人件費などの固定費が高い水準にあり、損益分岐点売上高比率が高止まりしていることや、小規模経営が少なくなく生産性の向上が緩やかなことなどが、収益性を低いものにしている。サービス業の損益分岐点売上高比率は1980年代以降、90%前後の高水準にとどまり、2006年第2四半期に75%程度にまで低下した製造業とは大きく異なっている(第4-2-8図)。
 以上のような「サービス」と「サービス業」に関する特徴から、サービス物価上昇率はゼロを境に下方硬直的な動きをするようになったと考えられる。すなわち、サービスは価格弾力性が低く、サービス価格を下落させても需要の増加は期待できないため、価格を下げるインセンティブに乏しいこと35、及び、サービス業は収益性が低く、赤字に結びつきやすい価格の引下げはできなかったことが、価格が上昇の方向には伸縮的であった一方、マイナスにはならなかったことの背景と考えられる36。

(デフレ解消後に期待されるサービス物価と賃金との関係の復元)
 消費者物価と経済ファンダメンタルズの関係が薄れてきたことの原因の一つは、サービス物価が下方硬直的な動きをしたことにあると考えられる。しかしこれはサービス業の賃金が2000年代以降、持続的に低下する状況において生じた過渡期的な現象の可能性がある。
 上記で分析したサービスとサービス業の特徴からは、逆にデフレ状況が解消されて好況下で賃金上昇が実現すればサービス物価も安定的に上昇することが期待される。すなわちサービスの価格弾力性の低さは価格を上昇させても需要量の大幅な減少はないことを意味し、収益性の低さは人件費コストが上昇すると容易に収益を圧迫することを意味する。サービス業の賃金が上昇する局面では、このような性質からサービス提供者は価格を上昇させやすいと考えられる。また、サービス需要は所得弾力性が高く、景気の回復が経済全体の所得増加に結び付けば、サービス需要の増加に牽引される形でサービス物価が上昇する可能性がある。

日本経済2006−2007(全文)第4章 デフレ脱却に向けて

●情報化投資による情報資本の蓄積が成長に寄与するが、日本はその効果を活かし切れていない。
 2つの生産要素のうち、まず資本に注目しよう。図表1-2-2-1は、経済成長の要因分解についての国際比較(日欧米比較)を示したものである。なお、資本は、情報資本と非情報資本に、労働は労働時間と労働の質にそれぞれ分けた上で要因分解を行っている。日本の経済成長率はいわゆる「失われた10年」を経て大きく低下し、欧米地域との差が開いている。その中で、第一の経路である生産要素のうちの情報資本に注目すると、いずれも情報資本によるGDP成長率への寄与はプラスになっている。しかし、1980〜95年と1995〜2005年の二期間でみると、情報資本の成長への寄与は、欧米では上昇(欧州では0.38から0.57、米国では0.52から0.77へ)しているのに対し、日本では横ばい(0.46)となっている。つまり、情報資本の投入増という形での情報通信から成長への経路は、日米欧の先進国経済では確かに存在しているものの、日本では1995年以降にインターネットの普及が始まって「IT革命」のブームが沸き起こったにもかかわらず、その経路が十分に活かしきれなかったと理解することが出来る。
第1章 情報通信と成長を結ぶ経路
第2節 情報通信と成長を結ぶ「経路」
2 「経済力」の経路
(3)生産要素の投入増による経路(「経済力」の第一の経路)の実証

平成21年版 情報通信白書のポイント : 平成21年版 情報通信白書

このように、近年の経済成長率の停滞は、情報通信を利用する側の製造業やサービス業等に大きな原因があるのではないかと考えられる。
 良く指摘されるとおり、情報資本の上昇が比例的に生産性を高めるとは限らず、その成否は情報資本の使い方に依存する。例えば、情報化投資に伴い、組織改革や人的資本の充実、情報通信の導入効果の検証といった経営努力を実施した企業に限って、生産性上昇の果実が得られるといった趣旨の研究成果が数多く報告されている6。情報通信と成長力を結ぶ経路を強化するには、単に情報化投資を加速するだけではなく、それをいかに賢く利活用するかという「智恵」が重要になってくると言える。情報通信は、情報や知識の蓄積・利用促進に加え、情報や知識が利用者間で共有されることによりその効果が飛躍的に拡大するという「ネットワーク外部性」を有しており、その効果によって生産性上昇に大きく寄与する可能性が高い。その潜在力を十分に発揮させるには、生産性の低いサービス業をはじめとする情報通信利用産業において、情報通信の徹底活用を進めていくことが重要となるだろう。
第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦
第1節 Investment:情報装備率を高めるための「投資」
2 先進国の中では最低水準の情報化投資

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いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学

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*1: http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h21/index.html 第1章 情報通信と成長を結ぶ経路 第2節 情報通信と成長を結ぶ「経路」2 「経済力」の経路 3生産要素の投入増による経路 「経済力」の第一の経路の実証

*2:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h21/index.html 第3章 日本復活へ向けた3つの挑戦 第1節 Investment:情報装備率を高めるための「投資」2 先進国の中では最低水準の情報化投資

*3:http://blog.goo.ne.jp/masakazu_itoi/e/c36dc04b564c8c567c98723a4eb00842