暑い夏にお奨めのヒンヤリする経済危機の読書旅

 まだまだ残暑ですね。暑い夜は、背筋がヒンヤリする経済危機の旅がお奨めです。 

 20世紀初頭、「世界恐慌を招いた四人の中央銀行総裁」というサブタイトルで、お送りする大恐慌の旅「世界恐慌」。イギリス中央銀行総裁モンタギュー・ノーマンは、当時は金融帝国の帝王とあだ名されたけど、今ではその名を語る者はほとんどいません。ノーマンは帝王ですが、生来精神が崩れやすいという困った設定、しかも世界恐慌の近づく日々の重圧に耐えかねて長期の船旅に出てしまったりします。どうなるんだ・・・。4人中ただ1人のマトモな総裁、ニューヨーク連銀のストロングさんは、結核病みの、引き継ぎ下手なスタンドプレイヤー。なもんで、ストロングさんが病に倒れたら連銀の仲間たちはどういう感じで世界を救えるのか分からないヒーロー不在になったまま、内輪もめしてるうちに、世界はどんどん取り返しのつかない方向へ。そして、ナチスは順調に台頭し第二次世界大戦が始まるのだった・・・。ちょいちょい出てくるケインズも、単なる若干怪しいヘッジファンドのバクチ打ち兼ベストセラー作家でしかなくて、今で言うとナシーブ・タレブみたいな感じでしょうか。そんなわけでケインズも全然世界の大勢を変えられないのです。

 とっても冷えて楽しいのでお奨めです。

 ついでに、ハイパーインフレの悪夢も良い感じでした。ハイパーインフレ下で生活する人々が何を感じていたのか、追体験したい向きにはぜひ。一方で、インフレの成金たちというのもいて、連夜のパーティ騒ぎだったという記述も興味深い。フランス側からお菓子屋に乗りこんできた人々が、(フランから見ると激安なので)胸やけするぐらい食べまくって馬車でまた去っていくなど、タガが外れた行動が見られるのも楽しい。また、基本的に食料がなくなっているわけではないので、農村は普通に祭りとかやってて、街の人が怒りを貯めまくって、集団で略奪に旅立つくだりが、ゾンビみたいでヒヤーっとします。

 現代のハイパーインフレは戦争とかと全く関係なく起きている。というか、今までのハイパーインフレも別に戦争がなくても起きていた。問題は、いきなり国有化したり現金給付を気前良く始めるかどうかなのだ。そして、ハイパーインフレになると羽振りが良くなる人はドイツでもジンバブエでも同じく農村または商人たちで、あおりをくらうのは、公務員や医師や看護婦などの専門職/サラリーマンと全く様相が変わらない。

 アフリカの経済問題は、未開の地だから起きてるわけではない。どの地域でも起きる可能性のあることが起きているだけなのだ、ということにうっかり気付いてとってもヒンヤリできる。  

 大恐慌のニューディーラーたちの対策の実態を知るためには、最適な一冊。意外なことに大規模公共事業は主体でなくて、小さな仕事を作り出す救済事業が主体なのだ。ケインズの話を聞いたローズヴェルト大統領は、あいつは数学の話がしたかったのか?とよくわからない感じだったのが印象的。結局、ケインズケインズ的な政策とは何なのか自分でも良く分かってなかったかも知れない。ということは、世界経済の処方箋はまだ見つかってないかもしれず、そのことにさらにヒンヤリとできます。